ハロー、こちら地球でいちばん高いところより。
ハローハロー、衛星の調子はどうだい?




 
( New Breed )




「進路調査書?」
「そ、進路調査書」

薬のにおいが充満していて、なんだか病院は人生的だ。 おじさんは煙草を吸いに、おばあさんは鳩に餌をやりに ……それならあたしたちは、いったいなんのために屋上へ?  味気ないワープロ印刷のプリントがぴらぴらと風に舞う。 ああ、ああ、このままずっと舞いつづけてればいいのに。

「まだ一年近くあるのに、ずいぶん気が早いんだね」

青白い顔でおだやかに微笑む幸村を見てると、時間までゆっくり流れてるみたいな気がする。 骨折とか、インフルエンザとか、貧血とか、 ありとあらゆる不調を訴えてやってくる外来患者があたしたちのずっと足下で蠢いてるはずで、 だけどそんなこと、ここではすこしも関係なくなる。 傷付いても修復される胃粘膜(そう、胃を患ってる人もいるはずだ、きっと) よろしく、ちょっとだけあたしが離脱しても、むこうも、あっちも、そっちも、 どこだってちゃんと動いてるのだと分かる。

そしたら罪悪感もすこしは消えて。

「ううん、そんなに早くもないみたい。 もっと前から進路がどうしようって、言ってたもの、別の学校の子たち」
「は? 決まってるの?」
「……そう思う?」

はは、と幸村がみじかく笑う。空が青すぎて、耳がキーンとした。

「思わない、かな」
「だってやりたいこと、ないんだもの、すこしも」
「それでおれのところに来たんだ?」
「ごめんね?」
「良いよ、いつものことだから」

こんなこともあったねって、あとで笑える日が来ると良い。 変わりたくないなんてはじめから無理な願いだから、だからそんなこと、考えてもないのに。 フェンスの向こう側にママと手を繋いで歩く子どもの姿が見えて、 あたしにだってあんなころはあったのだ。 あたしはおおきくならなきゃいけないし、あの子も、あたしも。 自分の手に目を落としてみれば、いろんなことを実感できるみたいな気がした。 働けど、働けど……。

「どうでも良いんじゃないかな」
「え?」
「いまと、それからちょっとだけ未来があれば、寂しがることなんかないと思わない?」
「……かもね」
「だから、まだすこしだけ帰らないで、ここにいて?」

今度はあたしがみじかく笑う。

たとえ無くしてしまっても、哀惜ならいくらだってできるのだし、 高いところを飛んでいく飛行機が吐きだす雲は現れたそばからどんどん消えて、 やがて見えなくなった。