「わあ、嘘、どうしよう」
(そう言って頬を染めた年上の女を、可愛い、と。思ったりした。すこし。)


( Shoot Speed / Kill Light )


獄寺などというちょっぴり厳めしい苗字を持ってはいるけれど、 ダイナマイトを投げつけたりはするけれど、 それでもやっぱり中学生の隼人くん。 約束の時間をすぎてもさっぱり現れない彼女を待ち惚けて、 成人するまで吸ってはいけない煙草に火を点けました……いけませんね、 すっかり慣れた手つきです。 彼女は会うたびちょっと怒るのですが、 隼人くんも多感なお年ごろ、最近では彼女の怒った顔を見るのが楽しみで、 これではまるで逆効果です。 好きな子をいじめたいなんて単純な子ども心はとうに忘れたはずなのに、 彼女がとても可愛らしい様子で怒るものだから、ついつい反抗してみたくもなるのでした。 けれど笑った彼女がもっと可愛らしいことを、隼人くんはちゃんと知っています。

野球部が好プレーをみせるたびに湧きあがる応援席でぼんやり、 今日は天気が良いなあ……とおやじ臭いことを考えてしまうのも、 ぜんぶ彼女が遅いせいでした。

ひょっとして野球が嫌いなのかもしれませんし、道に迷ったのかもしれませんし、 単に寝坊しただけかもしれませんが、とにかく隼人くんは彼女のことが心底大好きなので、 なんだか時間の進むのが速くかんじられるのです。 もう30分は経っただろうと時計を見ると、まだ11時07分で、 約束の時間から10分も経っていません。

こんなふうに余裕のない隼人くんですが、彼女も負けないくらい彼のことが大好きです。 5歳も離れているために、時々ジェネレイション・ギャップをかんじることはありますが、 どうしても、お互い好きにならずにはいられなかったのですから。

ところが、どうでしょう!

「隼人! 遅くなってごめんね」
「さんっ!」

半日ぶりに会った彼女が隼人くんにはきらきら輝いて見えました。恋の力とは偉大です。 とにかく一緒にいた友だちが彼女に気付くまえに(友だちはみんな彼女と仲良しなのです)、 しっかり隣の席に座って欲しかった隼人くんは、 喜んでいるのがばれては恥ずかしい気がしたので、 ぶっきらぼうな調子でそれとなく自分の隣を勧めました。

にこにこしながら、彼女がそこに座ります。

ここまでは順調だったのです。

「お弁当作ってたら遅くなっ……ちゃっ……」

ピンク色の鞄のなかから花柄の包みを取りだしていた彼女の手が、 言葉が途切れるのと一緒に、ぴたりと止まってしまいました。 肉じゃがの汁でもこぼれていたのでしょうか。 けれど白地の布には染みひとつありません。

おもむろに彼女の可愛らしい顔を見上げると、大きな瞳をもっと大きくして、 彼女は隼人くんのうしろを見ていました。 自然と視線をたどってしまった隼人くんがうしろを向いている隙に、 彼女の口から、鈴の音のような声が漏れだしました。

「わあ、嘘、どうしよう」

隼人くんの背中をいやな汗が流れます。

「……さん?」
「どうしよう、隼人」

もう一粒、汗が流れ落ちます。

「あの子、隼人のお友だち?」

そう言って彼女が指さしたのは、隼人くんが十代目とあおぐ沢田くんでも、 グラウンドの山本くんでも、もちろん京子ちゃんでもなくて、 やたらと髪の毛がおおくて牛柄のロンパースを纏っている、 ちいさな男の子でした。

……予想外の展開です。





隼人くんの大好きなさんはいま、野球より隼人くんより『ランボさん』に夢中です。 ご存じの通りさんとのおつき合いに余裕のない隼人くんでは、 彼女の膝でぐっすり眠っている子どもにも、ちょっと焦りをおぼえてしまいます。

「可愛いなあ、ランボくん」

(さんのほうが可愛いっスよ……!)

心のなかで拳を握って。 いつもは『可愛い』と言われるのを嫌がる隼人くんですが、 今日ばかりは自分に言って欲しいと強く思いました。 『嫌よ嫌よも好きのうち』です、勝手ですね。さん(とランボさん)の反対側で、 美味しいお弁当はどんどん友だちの口に消えて行きますが、 お弁当よりさんなのです。

まさかこんな子どもに大事なさんを取られてはたまりません。 第一、隼人くんはさんに膝枕を貸してもらったことがないのです。

羨ましいわ腹は立つわさんは可愛いわで、隼人くんはまだ長い煙草を携帯灰皿になすりつけました。 彼女はそんなことも知らずに、小さく丸まったランボさんの脇腹をなでつづけています。

「セクハラっスよ、さん」

膝にすっかり載ってしまえるような子どもの脇腹をなでて、 いったいなにがセクハラだと言うのでしょうか。 言い掛かりもいいところです。 むにゃむにゃ心地良さそうに指をしゃぶるランボさんから、さんは隼人くんに目を向けました。

「隼人」
「……なんスか」
「だってこんなに可愛い子、はじめてなの」

爆弾発言です。

サトウ珠緒みたいにうるうるした瞳で『はじめてなの』なんて、 隼人くんのときには言ってくれませんでした。 なんだか負けたような気分です。さんはさらにつづけました。

「うちに来てくれないかなあ。わたしもランボくんと一緒に寝たい」

核爆弾発言です。

さんが隼人くんにいちどでも『一緒に寝たい』なんておねだり してくれたことがあったでしょうか……いや、ありません!

『かきーん』という軽快な音はてっきり自分のハートが砕け散った音かと思いましたが、 それなら効果音は『がらがらがっしゃん』です。 山本くんがホームランを打った音だと分かって、 隼人くんは二重も三重ものショックに打ちひしがれそうでした。

「……さん、おれよりランボの方が良いんスか?」

と、隼人くんは思わず言ってしまいました。こんなことならさんに会いたい気持ちを抑えて、 十代目と野球を見ることに専念するんだった……そんなことを考えても後の祭りです。

がっくり肩を落としていたところ、さんにツツっと服を引っ張られて、隼人くんは顔をあげました。 彼女がいつになく真剣な表情をしているので、隼人くんはいまさらながら 『肯定されたらどうしよう』という不安で、胸がいっぱいになりそうでした。 だって目が合うと、さんは言いにくそうに視線を逸らしてしまったのです。

「さん?」
「ねえ、もう帰ろう?」

ぱっと立ちあがったさんはランボさんを京子ちゃんに預けて、 ピンク色の鞄片手にさっさと行ってしまいます。

隼人くんにはわけが分かりません。

けれど放っておくわけにも行かないので、どんどん遠ざかるさんの背中を、隼人くんは慌てて追いかけました。

「さん!」

やっと追いついたころには、もうグラウンドが遥か遠くにありました。 隼人くんが横に並ぶとさんは急に立ち止まって、くるりと隼人くんに向きなおります。

「帰るって来たばっかりじゃないスか。山本のヤローの試合もまだ……」
「だって隼人のこと好きよって、みんなのまえで言うのが恥ずかしかったの」

赤くなった頬を隠すみたいにして抱きついてきたさんに、隼人くんはノックアウトです。 1ラウンド3秒でTKOです。

グラウンドまで連れ戻す気でいた隼人くんでしたが、 こうなってはもう戻る気なんかなくなってしまいます。 隼人くんはちょっと頭を掻いてから、さんを抱きしめかえしました。

「……帰りましょっか」
「そうしよっか」

予定はだいぶくるいましたが、これはこれで悪くない一日かもしれません。





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なんだこれ……! としか言いようのないアレですみません。
あとキモくてすみません。
ランボさんと獄寺くんと雲雀さん(と骸)が好きです。
ランボさん(子)>>>>獄寺くん=雲雀さん>六道骸です。
こんなものを考え出す自分の脳髄に合掌。