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ていうか二次元から来た中坊と喧嘩してどうする。
なんて冷静に考えられるほど大学生も大人じゃないんでして。


「ちょっ、アンタ!かんづき!モノ投げないでよっ!
「かんづきじゃありませんッ!みづきです!
 だいたい何ですか!が先に投げてきたんでしょうッ!?」
「あたしのモノなんだから投げようが何しようがアンタに指図される謂われはない!」


ひゅんひゅんと『ちびっ子雪合戦大会決勝戦』さながらに飛び交ってます。
・・・・・あたしのブツが。


「僕のものは僕のもの、のものは僕のもの!」


「美ガキのくせにジャイアニズム振りかざしてんじゃないわよ!」


嗚呼、旧千円札の人の小説を投げるな、投げないで・・・。
汚い部屋をこれ以上汚くしてどうすんだ!
オマエはルパン四世(ゴキ)の手先か!

そう言われてみれば、あの髪の黒々しさ!
触覚を思わせないこともないふわりとした髪の毛!
付いてんのか付いてないのか分かんない細っこい手足!

あああ、二次元からの使者かと思わせといて・・・


「実はゴキーズの擬人体なんだ!そうなんだ!」


「僕の麗しい姿を見てよくもそんな汚物的発想が出来ますね。
 尊敬しま・・・ちょっ!ストップ!ストップ!
 、落ち着きなさいッ!!」

「問答無用!」


ばるさん。ゴキによく効きます。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


アレ、『ぷしゅー』って、ちょっとした快感ですよね。
ゴキに噴射するときは勿論だけども。
人型に向けて噴射するときなんか特に。
(よい子悪い子元気な子は真似しちゃいけません。危険すぎます)


はっはっは、キミの使命は終わったよ、かんづきはじめ」


そして今こそ正体を現せ!
疲れ果てたあたしに死んでお詫びし、ろ?????


はて?


「どうして変化を解かないのか」
「べんげじゃ・・・ごぼっ、ごぼっあ・・・ごぼぼっりまぜっぶ・・・ぶぶぶ


どうしよう。
どうしてこの子死にそうになってるんだろう。

どうして口から『ぶぶぶ』なんて音がナチュラルに出てるんだろう。

ていうか何言ってるんだろう、かんづきくん。


はっ!
さてはもしかしてこれは。


「かんづきはじめって人間だったの!?」
「だばらぞ・・・ごぶっ・・・っでるぢ・・あ・・・・ごぶっ

いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ごめんなさい、ごめんなさいっ!
 お供え物は何がいいですか!?ミカン?ミカンでいい!?」

「ごろっ・・・ざ・・ばばば・・・び・・・・・」

「はっ!すみません、すみませんっ!そうだよね!
 死に化粧の前にお風呂だよね!
 ごめんねごめんね綺麗な身体で埋葬されたいよねっ!?」


お風呂沸いてたっけ、それともガス止められてたっけ?

間違いない、後者だ!


「大丈夫!水道はまだ止められてないから!」


緊急時に備えて常にバスタブに水、入ってるから!

幸いにもこんなチンケで極小および矮小な6畳間・・・・

いつになったら引っ越せるんでしょうか。

自宅のベッドで息をひきとりたい・・・なんて儚い希望も抱けません。
こんな部屋で死ぬくらいなら死んだ方がマシです!
嗚呼そうだ。
こんな悲しい気分の時は、住宅情報誌でも見て広い家に住む妄想でもしよう。
そうだそれがいい。
コンビニ行こう。
そして『週間ちんたい』立ち読みしよう。
かんづきくん居るから鍵持たなくても平気かな。


「かんづきくん、お留守番よろしーく!」
「ごぼぼ」
「ごぼぼって原始人の真似?
「ごぼぼぼ」
「インディアンうそつかなーい」
「ごぼぼぼぼ」
「・・・っていうの、ネイティブ・アメリカンの方々に対する差別にあたるらしいよ」
「ごぼぼぼぼぼ」
「?」


あれ?かんづきくんの口から泡みたいの出てるの、どうして?


いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 かんづきくんっ!?誰にやられたの!?うわっ、全身べたべたしてる!?
 ・・・マシュマロまん!?マシュマロまんにやられたの!?


どうしようどうしよう、あっお風呂!お風呂に突っ込め!
此処からお風呂までは畳一枚しかないから、大丈夫!運べる・・・はず!
嗚呼、なんて狭い家なんでしょう・・・。

じゃなくて!


「かんづきくん重たい」


まるで死人のように重たい。
ていうか動かない。
あたし冠婚葬祭のマナー分かんないのに、どうすりゃいいんだ。
お焼香は何回つまめばいいのか。
ご遺族の方々にどんな言葉を掛ければいいのか。
お香典に充てるお金がないときはどうしたらいいのか。


「お願いだから生き返ってね!」


どうにかこうにかバスタブにかんづきくんを頭から突っ込んで。
待つこと数十秒、未だかんづきくんは浮かんで参りません。
エラ呼吸も出来る人だったのか、かんづきくんは。
すごいなあ、人間のかがみだなあ。


「ぶはっ!!げほっ・・・げほっ・・・」


人間のかがみはぱりんと砕け散りましたとさ。おしまい。


「かんづきくん!蘇生した!?えーっと、マシュマロまんに報復しに行く!?」
「あなた僕を殺す気ですかッ!」

「え?マシュマロまんってそんなに強いの?最強伝説?」

が僕にばるさん噴射したんでしょうッ!?」
「そんなことしないですよ」
「しましたよッ!!もういいです、もういいです、と話してると馬鹿がうつります」


馬鹿ってうつるのか、そうなのか。
賢いのはうつるのか。
そうだとしたら馬鹿な人と賢い人が一緒に喋ったらどうなるのか。
馬鹿の度合いを負の整数であらわすとして。
賢いのの度合いを正の整数であらわすとして。

(賢い人の賢さ)−(馬鹿な人の馬鹿さ)=(影響力)

これでどうだ。

まあ、あたしは十段階評価で馬鹿度=(−3)くらいだろうから。
賢い度=(+10)のびるげいつとかほりえもんとかとお喋りすれば・・・!

あーら不思議!あたしまで賢い度=(+7)の賢い人に!


「ごめん、かんづきくん。あたしちょっと(ヒルズまで)出掛けてくる!
「待ちなさいッ!人をこんなにしておいて、逃げようったってそうは問屋が卸さない!」
いえ、死活問題なので。そんな濡れそぼった手で触らないでください。おお嫌だ
「触らないでとはなにごとですかッ!撤回しなさいッ!」
「無理。だって服濡れるし」


この状況はあれじゃないか。
まるでお風呂から現れた海坊主にあたしが襲われてるかのようじゃないか。
このままだとお風呂という名の海に引き摺り込まれるんじゃないか。


「放せっつってんでしょ!アホ!海坊主!

「なんですか海坊主っていうのは!放しませんッ!」

「放して!海にあたしの生きる場所なんかないからっ!アホ!馬鹿!馬鹿度(−6)!」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんですッ!」

「ちげーよ!馬鹿は馬鹿だ!ばーか!かんづきはじめのばーか!」

「馬鹿馬鹿言わないでくださいよ、馬鹿ッ!怒りました、僕、怒りましたッ!

いちいち怒ったとか宣言しなくてもいーっつの!ばかばかばかばかばーか!」


さて此処で問題です。
上記の会話に『馬鹿(もしくはばか)』は何回出てくるでしょうか!?
・・・・・・・・正解は『PTAの人に怒られそうな回数』でした。


「ちょっ、やめてやめてやめてやめて!

 海水浴には時期尚早ですよよよよよよ!!



「ばるさん噴射されないだけマシだと思いなさいッ!」


ばっしゃーん!!


「うわっ、たすけ・・・あたっ・・・およげな・・・い!」
「お風呂で溺れるのは幼児と老人に任せておきなさいッ!」
「あ、ほんとだ。海じゃない」


水に浸かったことで得たものは。
ずばり『正気』でしょう。
あたしはどうしてこんな二次元からの闖入者と喧嘩しなきゃいけないんだ?
どうして水浸しにならなきゃいけないんだ。


「かんづきくんってほんとに漫画の人なんだ?」
「まだ信じてなかったんですか?」
「はあ、この先ずっと信じられないと思いますよ?」
「まあ、それならそれで構いませんけどね」
「今度気が向いたらかんづきくんの出てる漫画?読んでみるよ」
「別に読まなくていいですよ。どうせチョイ役なので


うわあ、悲しい。
そんな濃いのにチョイ役なんだ・・・。
漫画読んだ人に

『なんて名前だっけ、あの、ほら、チョイ役なんだけど濃い人!』

とか聞かれちゃうんだ・・・。

もしやあたしの使命は『チョイ役に愛の手を』?

いいよ、引き受けてあげようじゃないの!
そんな失礼な質問を繰り出すチョイ役泣かせな読者さまにちゃんと教えてあげるから!


『かんづきはじめは漫画ではチョイ役だけど、彼自身の人生では堂々と主役ですよ』


・・・・歴史に残りそうな名言だ。
そしてあたしは神話になっちゃったりするのです。

足許にひれ伏す数多のチョイ役たち・・・。

その中心であたし、つまりチョイ役救済の女神・は優しい嘲笑を絶やさず・・・

なんていい話だろう。


「あたし、かんづきくんの宣伝してあげるから!安心して!」
「結構ですッ!どうでもいいので、着替えを出しなさいッ!」
「あ、はい、ただいま・・・」


着替えなんかあったっけ。
と思って探したら、ちゃんとありましたよ!
スーパー銭湯の抽選で当たったロゴ入り浴衣が!
いやあ、捨てなくてほんと良かった。
嗚呼でも、ちょっと待つがよろしい、かんづきくん。
あたしもあなたの所為でびちゃびちゃなんですよね。



なんじゃこりゃ。という感想を抱かれたまま続く。