48 The Breaking of the Fellowship
「どういうことか説明して貰おうじゃねーか」
オークの進化版みたいな敵(ウルク=ハイって言うんだって)をなんとか撃退して。
舟を上げた川岸に戻ってきたのはたったの四人。
俺と跡部、樺地、それから日吉。
宍戸と鳳はもう行ってしまったんだろうな。
舟が一艘なくなってる。
それはちゃんと決まってたことで。
だから跡部が怒ってるのはそのことじゃない。
と向日とジローが居ないのはどうして?
日吉は赤い目をしていて、もしかしたら泣いてたのかも。
黙ったまま俯いて、動こうとしない。
「は・・・」
「俺を助けて、撃たれました」
「で?」
動揺の色も見せずに、跡部は片眉をつり上げる。
けど俺はそうもいかなくて。
「『撃たれた』ってどういうこと・・・?」
「滝は黙ってろよ」
「だって・・・!ねえ、は大丈夫なの!?」
日吉のことを助けよう助けようって、がそればかり考えてたのは知ってる。
でも『撃たれた』って、どうして?
『撃たれた』はどうして此処にいないの?
日吉に詰め寄りかけた俺を、跡部が制止して。
それから跡部は日吉に射るような視線を向けた。
「あいつらは何処行った?」
「・・・敵に連れて行かれました、三人とも・・・助けられなかった」
「は生きてんのか?」
聞きたいようで、聞きたくないような答え。
日吉が口を開くのを、辛抱強く待った。
これで『死んだ』なんて言われたらどうしていいか分からない。
日吉を責めるのは御門違いだって、分かってるけど。
それでもやっぱり、手、出ないなんて言い切れない。
「分かりません」
絞り出すみたいにそう言った日吉の肩が、少し震えていた。
「死んでるかもしれねーってことか?」
「右肩に矢を受けて、そのまま倒れました」
「傷は?」
「たぶん、深いです・・・」
跡部は「そうか」と言ったきり口をつぐんで。
俺は・・・いつもと同じ顔をしてるんだろうか。
重たい沈黙を破ったのは樺地で。
「あの・・・宍戸さん、は?」
「鳳と二人で行かせた」
「そう、ですか・・・」
日吉が吃驚したように顔を上げる。
そっか、みんな知らなかったんだ。
「二人でって何処に・・・」
「何処にって、決まってんだろーが」
「・・・俺の所為だ」
『ああ、そうだよ』って言えたらどんなに良いか。
だけど、そんなこと言えない。
誰の所為とかそんなこと、分からないし、決められない。
「思い上がってんじゃねーぞ、俺様が行かせたんだ」
断腸の思いってやつ、かな。
いったいどうしてこんなことになっちゃったんだろう、って。
此処に来てから何度もそうやって考えて。
答の出ない馬鹿らしい自問だって思うけれど。
「俺はたちを追う」
はっきりとした口調で、跡部は言い切って。
「俺も行くよ」
「自分も、行き・・・ます」
当たり前だよね、宍戸たちを追っても、それじゃあ行かせた意味がなくなっちゃう。
俺と樺地が続いて、日吉はやっぱり黙ったまま。
ぱかんと真っ二つに割れた角笛を握りしめてて。
その手は微かに震えてた。
悔しいんだろうなって、それくらいは分かるけど。
きっと悔しいどころじゃないんだろう、日吉は。
自分を助けるためにが怪我をして、しかも連れ去られて。
俺が日吉だったら絶対、ものすごく自分を責めてしまうと思うから。
「俺も行ってもいいですか」
やっとのことで聞こえてきた声は小さくて自信なさげで。
ほんとに日吉の声なのかなって、ちょっと疑ってしまうくらい。
なんだか可哀想に思えてくる。
そうだ、俺だって悔しいし腹も立つけど。
いちばん悔しくて腹が立ってるのって、きっと日吉なんだから。
「駄目なわけないよ。ねえ跡部?」
気付いたらそう、声を掛けてて。
跡部も嬉しそうにちょっとだけ表情を弛めて、頷く。
「置いて行ってどうすんだよ」
日吉と目が合った跡部は決まり悪そうに視線を外して。
なんだか日吉が笑ってるの、久し振りに見た気がする。
懸念だった指輪も宍戸たちと一緒に遠くへ行ってしまった今。
やるべきことなんて一つしかない。
「追いかけるなら、早い方が良いね」
「ああ。行くか」
「すみません、その前にちょっと」
簡単に服装を正して足を踏み出し掛けた俺たちを遮る声。
なんだろうって、訝しげに眺めてると。
ぱっかり割れた角笛を片手に、日吉が川の方へ歩いていって。
その場に静かにしゃがみ込むと、それを川に浸した。
小石に引っ掛かりながら徐々に流れに乗っていく角笛は。
おしまいに滝に落ちて、見えなくなった。
「いいの?」
「はい、あれの役目は終わりました」
「役目?」
服に着いた返り血を嫌そうに擦り落としてる日吉。
どうやら少しは落ち着きを取り戻したみたいで、ほっとする。
ほっとするけど、それでものことが心にわだかまる。
肩に矢って、そういえば宍戸も前に肩を刺されて大変だったらしいし。
なんて、心配したところで何も出来ないんだけれど、いまは。
「さんの代わりに矢を受けて」
「あの角笛が?・・・だから割れちゃったんだ」
「はい」
「オイ何してんだ、行くぞ」
跡部の声に急かされて、走り出す。
このあたりからなら敵はたぶん、サルマンの塔に向かっていて。
またしばらく走り通しかな。
だから、走るために、たちが無事で居るって信じて。
「馬鹿は死なねーっつうからな」
「そんなこと言うっけ?」
「言うだろ」
跡部とそんな言葉を交わしながら、目指すは西。
待っててね、みんな。
The Fellowship of the Ring Fin...
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