「イエスです」
「ごめん、ちょっと遅くなった」
「本人確認。姓名を名乗りたまえ」
「向日岳人です!」
「手土産確認、どうぞー」
「伊勢屋の茶団子です!」
「最後に追跡人の有無確認」
「人っ子一人ありません!」
「それではドアチェーンを外しまーす」
相変わらずボロい。
チェーンなんかしても、こんだけボロかったらドア蹴破れるんじゃねえ?

 2 DVD

漫画的なスピードで俺を中に通すと、は再度がちゃがちゃとチェーンを掛けて。
それから茶団子の包みをひったくると、何事か喚きながら冷蔵庫に直行した。
「いつ来ても汚いよなー、の部屋」
「うるさい。ちゃんと毎日コロコロはしてるもん」
「せめて掃除機にしろって、マジで」
「掃除機なんてハイカラなもん御座いませんよ」
が、しかし(ハイカラ?)。
服やら鞄、高級寝具一式に大量のCDと高級オーディオ。(あと鹿の『はく製』)

推定月2万円のボロアパートにどうしてこんなもんあるんだよ!

と思わず突っ込みたくなるようなオプションは揃いすぎてるくらいで。
「オマエ、最初に掃除機買って貰えよ・・・」
「無理。べ様あたしから頼み事すると付け上がるんだわ」
「分かった。今度俺から言っとく」
「お願いします。あ、あの鹿のはく製がっくんの部屋にどう?
正直アレ、場所取りすぎで鬱陶しいの」
「いらないし」
「・・・・・・。かくなる上は自然に還すか」
跡部との関係は、どこぞの政治家と愛人の関係のようだ。
ていうか跡部、貢ぎすぎ
鹿のはく製買う前に掃除機と食料と出来ればマンション買ってやれ。
遊びに来るたびに水道水と味付け海苔出される身にもなってみろよ。
ってさ、やっぱりそろそろ跡部と結婚した方がいいんじゃん?」
「いやいやいやいや、いきなりナニ言い出すのさがっくん」
「だってさ!ヤバイって
 そろそろ健康に害を与えるかもしれないぐらい貧乏な食生活および精神生活!」
「精神は貧乏じゃなくってよ。付け加えると景吾はあたしがピヨに決定的に振られた場合にのみ発動する最終オプションなんですのよ。そういう約束があるんですのよ」
「なんだよそのそこはかとなく跡部が可哀想っぽい約束は!」
「うそぷー」
は悪びれる様子もなく、かちゃっかちゃっと煙草に点火する。
空気清浄機マックス。
、その内死ぬぞ」
「それもまた人生」
「あっそ」
ぐてっとソファにもたれるは、ほんと、可哀想なくらい可愛い。
高そうな食器に積まれた味付け海苔は湿気っていて、口の中の至る所にくっついた。
「なあ
「ん?なんだね向日少年」
「日吉と跡部の間に俺、入れといてくれない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ダメ?」

「が っ く ん に く ど か れ た ぁ ぁ ぁ ぁ !!」

前言撤「うわっ、ケムリ詰まっ・・・けほっ、けほっ、けほっ」回。
折角センチメンタルな感じになってたというのに!
センチメンタルな感じに流されつつ、わりと真剣に告ったというのに!
「ちょっ、けほっ、がっ、けほっ、けほっ、たすけっけほっ、けほっ、くるしっけほっ」
何かの呪文を唱えてるようにしか聞こえない。
「煙草買う前に食いモン買えよ・・・」
「けほっけほっ、無理っ。あ、治まった。むーりーあーあーあー」
「無理なわけないじゃん」
「無理。食べ物なくても死なないけど、煙草なかったら死ぬ
「それ人としておかしいだろ」
「べ様食べ物買ってくれるけど、煙草とピヨは買ってくれないもん」
なんだろ、この跡部との関係・・・。
ちょっと常人の理解の範囲超えてる気がする・・・。
それでいてプラトニック。
ってさー、日吉がやめろって言ったら煙草やめんのー?」
「勿論ですとも、たぶん
うん、決めた。
今度日吉に頼んどく。

「煙草止めたらお口が寂しいの」

「は?」

「馬鹿ですね、先輩・・・え?・・・俺が居るじゃないですか・・・若?いやん、ダメよそんなの・・・先輩の口を寂しくなんてさせません・・・若っ若っ、愛してる・・・俺もです先輩。   と若の未来予想図103・完。

 うふふふふふふ・・・・・・というわけでがっくんはすぐさま宅配ピザ注文。
 あたしはすぐさまDVDセッティング」

「おかしいよ!その妄想なに!?しかも未来予想図って、痛っ!もう痛っ!」
「一番痛いのはがっくんの髪型だと思うよ?」
誰だよ!『だけど涙が出ちゃう・・・女の子だもん』とか言った奴!
だけど涙が出ちゃうよ!男だけど涙が出ちゃうよ!
「サイドメニューのアイスもよろしく」
・・・涙声で電話したから、ピザ屋のお兄ちゃん結構ひいてたと思う。
受話器を置いてソファに戻ったら、がすでにロード・オブ・ザ・リング見始めてて。
また泣きたくなった。
「3150円だってさ」
「がっくん愛してる。がっくんとがっくんのお財布愛してる」
「オマエどんな教育施されて育ったんだよ」
「え・・・?」
「なんだよ!」

「パパもママもが5しゃいのときに遠くにいっちゃって・・・」

「・・・・・ごめん。分かった、出す!3150円くらい出す!」
遠くに行っちゃって今はアメリカに居るんだけど、そっかがっくん出してくれるんだ!
 大好き!ピヨ×78の次に好き!」
「ウソなんだ!?しかも79番目なんだ!?」
「1番は『やめて下さいよ』って言うときのピヨ。
 2番は『いい加減にして下さい』って言うときのピヨ。
 3番は『まったく貴女って人は』っていうときのピヨ。
 4番は『貴女ちゃんと物食ってるんですか』って言うと
「もういいって!ってかどうしてそんな台詞ばっかりなんだよ!」
なし崩し的に誤魔化そうとして抱きついてくるの肩越しに見えた物は。

『べさま基金』と書かれた段ボール箱いっぱいの福沢ゆきちだった。

コイツ死ぬほど金持ってんじゃん・・・!!


あー、アラゴルンまじかっこいー。
あー、魔法とかちょー使ってみてー。
あー、レゴラスくらい跳んでみてー
もそもそピザを食いながら映画を観て。
ちらりとの様子を窺うと、俺の分だったはずのアイス食ってた。
一言断ってくれてもいいんじゃないかと思う。
「なによ?」
「ううん、なんでもない。ってナチュラルに『貧乏系の人ですか?』って聞かれそうな体型だもんな。いいよ、アイスぐらい良いよ。成長期の俺はタンパク質で良い!糖質よりタンパク質で良い!」
見てるうちに不憫になってきたからそう言ったら、はにっこり笑って。
「食べ物くれるがっくんは、
 『妊娠するので触らないで下さい』
 って言うときのピヨより好きだよ?」

非常に貧乏くさい褒め言葉な上に、褒め言葉かどうかちょっと疑わしい。

食べ物くれない俺は?なあ、その辺どうなの?
「日吉ってそんなこと言うのかよ」
ちょっとに好かれてるからってリズム調子に乗りやがって・・・!
「うん。妄想の中で
「ッハ(鼻で笑う/跡部風)!」
「ところでピヨってさあ、アラゴルンとフロドとどっちが似合うかなあ?」
「いや、どっちも似合わないんじゃ・・・」
「やっぱりアラゴルンかなあ?なんか高貴!って感じだもんね、ピヨ。
 そもそも若って名前が戦国臭だよね」
戦国臭ってどんな匂いだよ。
突っ込むこともままならない俺を侑士なら助けてくれるだろうか。
「♪結婚して〜日吉〜結婚しなくても〜心は日吉
 『先輩!一緒に道場を繁栄させましょう!』(セリフ)
 ♪破廉恥学園〜日吉破廉恥新婚生活〜日吉
 『お風呂にする?御飯にする?それともあ・た・し?』(セリフ)
 日吉〜甘美な響き〜」

変な歌作ってる。

聞こえないフリをして、俺は映画に集中した。
ときたまアラゴルンが日吉に見えて、心底キモかった。

今から思えば日吉ゴルンの方がまだかわいげがあった。