あたし、思ってたんだけど。
天国ってたぶん酒池肉林属性だよね。
お花畑が広がっててぇ、なんていうのは所詮お子様の戯言だよね。
じゃあ、あたしもしかして死んでないのかな。
だってここ、酒池肉林の要素ないもん。
それどころかお花畑もないもん。
荒野?とか、そんな感じで。
ならいったい此処は何処?わたしは誰?日吉


 4 Exploring the Wildreness


べ様の自家用ジェットがどうやら落ちたらしくて。
その辺の記憶がどうも曖昧なんだけれども。
とにかく今、言えるのは、『何処だ此処?』と『誰だ此奴?』。
つまりこの、どうにも偉そうな後頭部には見覚えがあるのだけど。
あたしの知ってる偉そうな後頭部の持ち主は。
薄着のチラリズムが信条の人であって、決してこんな重装備をした人じゃない。

「もしもーし。お兄さーん、死んでますよー死にますよー」
「死んでねえよ」

あ、偉そうな後頭部に声までそっくり。

「おはようございます、お兄様」
「なんだ?兄妹イメージプレイか?」
「いえ、便宜上お兄様と呼ばせて頂いただけです。
 ところであなた、あたしの知り合いにそっくりですね」
「こんな類い希な美貌!知性!エロチシズム!を兼ね備えたヤツなんざ俺だけだろ」
「いえ、でもほんとにそっくりです」

見知らぬ土地に流れ着いてなお、どうしてこんな人とお関わり合いにならなきゃいけないのか、よっぽど神様はあたしをお嫌いなのか、好きすぎて意地悪をしているだけなのか、神様はあたしを熱い鉄かなにかと勘違いして打ちまくっているのか。
煙草を吸いながら、此処の土地に煙草はあるのかなあ、なんて考えて。

「それで此処が何処かご存じですか?」
「アーン?中つ国だろ、たぶん。っつーかその喋り方やめろ、キモイ」
「なるほど、ロード・オブ・ザ・リングのコスプレの方ですね?」
「その喋り方やめろ。俺様との仲じゃねえか」
「なんでウチの名前知ってはんのん?ウチ、俺様っちゅー知り合いなんかおらんで?」
外国語もやめろ。俺だっつーんだ! お れ !」

「『俺』という知り合いのいない確率100%」

「キィーーーーー!!」
『俺様』が頭を掻きむしってヒスばばあのような声を上げる。
面白いから写メでも撮って保存しとこうかと思ったら、携帯がなくなってて。
残念、もうちょっと遊びたかったのに。

「で、景吾なにやってるの?」
「分かってたんなら最初っから言えよ!」
「どうどう、三郎どうどう」

「俺はウマか!?しかも三郎って!?三郎って!!

プライドが高い人って怒りっぽくてやーね。
息みすぎてぜえぜえなってる景吾を一頻りなだめて。
敷いて貰ったマントの上に座る。
なんだかんだでレディ・ファースト。

「あたしらってご臨終じゃないの?」
「生きてるだろ、現に」
「だね。不思議なことに。これが100%を超えた歪みか
「それは戸愚呂おとうとだろ」
「・・・・・・・。で、景吾たんコスプレ、ウィズ四郎

そう、何故か部室に放置してきたはずの白馬・四郎が居る。
ていうかべ様、いつの間にコスプレなんかに目覚めたんだろう。
前にタキシードかめん様のコスプレ頼んだら、凄い不服そうな顔してたのに。
次の日タキシード着て学校来たけども・・・。
周りドン引き、闇市ではタキシードべ様の写真が密売されてたけども・・・。

「コスプレじゃねえ。運命であり天命だ。」
「意味分かんない」
「アラゴルンじゃねえか!どっからどう見てもアラゴルン!イコール俺様!
 そしてアルウェン、イコールアラゴルンの恋人、イコール
「いやいやいやいや、発想飛躍しすぎ。飛躍しすぎでチョモランマ登れるよ」
「チョモランマは無理だろ、せいぜいK2だ」
「たいして変わんないよ、200メートル程度だよ」

べ様との会話は、3歩進んで2歩下がる歌を思い出させてくれる。
何年一緒にいるのか分かんないくらいなのに。
ツッコミ不在はかなりの痛手だ。

「アラゴルンなってどうするの」
「アラゴルンと言えばやることはひとつだろ。指輪の旅に出る
「ええーっ!?」
「ロマンだろ」
「は?」
「ロマンだ!王様的な冒険するのがだったんだよ!」
「ええーっ!?だって
 『俺様が社長になったらを愛人にしてやるぜ』
 って言ってたじゃない!それが夢だって言ってたじゃない!」
「指輪物語を読んで抱いたまっさらな夢だ。夢その2」

『夢その2』とか言ってる時点で、すでに夢見る心は純真じゃないような気がする。
嗚呼、ピヨに会いたいな。
あの子、あたしが居なくてきっと何処かで泣いてるわ・・・。
ていうか、ずっと此処に居たらピヨに会えないんじゃ・・・。
その前に、ずっと此処に居たら野垂れ死んじゃうんじゃ・・・。

野垂れ死ぬ、つまりピヨに会えない。

それは困る!チョー困る!

「べ様!」
「ア?」
「乗った!べ様がアラゴルンかどうかは別として、とにかくあたしも行く!」

がしっと景吾の両肩を掴んで熱っぽくそう語ると。
べ様は急にオトメ悶絶死もののうっとりするような笑顔を見せて。

「アルウェン・・・」

とかなんとかほざきながら、顔を近付けてきた。
暗転。
誰がアルウェンだ、このやろう。

「若・・・」

隙間0.3ミリ、シャー芯一本
今や崩れに崩れたべ様のお顔が急速に遠のいた。

「萎えた。言うに事欠いて日吉はねーだろ」
「それはこっちの台詞です。誰がアルウェンだよ。映画入りすぎだよ。
 妄想もそこまで行くと掛ける言葉もないよ
「うるさい、仕切り直しだ」
「嫌。ていうかさ、べ様の後ろなんか近付いてきてるよ?
「どうでもいいから、これから俺様のことは景吾ルンと呼べ」
「嫌だよ。ほんとになんか黒いの来てるんだけど」

なんだろ、あの黒いかたまりは。
がぶり寄ってくる景吾ルンべ様を押しのけながら目を凝らす。
人かな?いや、人はあんなに黒々してないね。
なにアレ、ほんとなにアレ?
あたしあんなの映画の中でしか見たことないんですけど・・・

「べ様、うしろ!ポーク!ポーク!
「豚肉は走らねえぜ?」
「じゃあコーク!コーク!
「ドラッグは『駄目、ゼッタイ』だ」
「じゃあホーク!ホーク!
「王監督か?」
「ちーがーうー!!えっと・・・あ!オーク!!オーク!!!

そうだ、ロード・オブ・ザ・リングに出てきた特殊メイクの激しい敵
・・・・・が、10メートル先に見えます。
こっちに向かって走ってます。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!敵襲!!敵襲!!」」

あたしピヨに会えないまま死んじゃったら、成仏出来ないと思うんだ。


王監督が走ってきたら駆け寄って一本足打法を伝授して貰うのに・・・