王様と女王様みたいに並んでソファに座って。
黙っておれたちの話を聞いてたあとべとは。
二人ともびっくりするくらい落ち着いてた。
ちょっとだけむかつく。
ちょっとだけあとべが羨ましい。
だってときどき冗談言い合って、くすくす笑う二人は。
王様と女王様ってゆうより、伯爵夫妻ってかんじに見えたから。
おれがアラゴルンだったらよかったのにな。
11 Black Riders & Sky
「ほんとのほんとにあの指輪なんだね」
あらかた話を終えて、最後にあの、指輪をあぶるのをやってみせたら。
あとべはちょっとだけ眉を顰めて、は静かに笑っていた。
そうゆう、ふとしたときの寂しそうな顔とか大好きって言ったらは怒るかな?
「おまえら部屋は取ったのか?」
「ああ、なんかホビット用の部屋がどうしたこうしたっつってよ。突き当たりの部屋」
「そうか。オイ、」
椅子に座ってパイプをふかしてたが、呼びかけられて振り向く。
の後ろから月の光が差し込んでて、すごくきれい、も月も。
「んー?」
「オマエこいつらの部屋行って、ベッドに枕突っ込んでこい」
「なんで?」
「カモフラージュだ、カモフラージュ。中でホビットが寝てるように見せんだよ」
「なるほど。じゃあ此処の部屋の枕も持ってくね」
短い棒みたいなもの(タンパーっていうんだってさ)でかさこそと火を消して。
はあるだけの枕を持って部屋を出て行った。
おれもついて行きたかったけど、がまん。
「おまえら、ここで寝ろ。あと宍戸は絶対指輪嵌めんなよ」
「分かってる」
「俺たちの部屋、なんかあんの?」
「宍戸が指輪使っちまったから、敵がくるかもしれねえ」
「ええ!?ねえはだいじょーぶ?」
「まだ平気だろ。とにかく。
を危ない目に遭わせたくなかったら、絶対指輪は嵌めるなよ!」
ああ。
あとべはほんとにが好きなんだな。
ししどだって、ちょうたろうだって、がっくんだって、みんなそう。
みんなだけは危ない目に遭わせちゃ駄目だって思ってて。
おれだってそう思うけど、あとべほどかっこよくは出来ない。
「あとべって頼りになるし、やさしいし、かっこいいしー」
なんだろ、これ。
やきもちとか、コンプレックスとか、なんかそんなかんじ。
「当然だろ」
「んー、があとべのこと好きになっちゃったらどうしよう・・・」
ほんとにそう思ったのに。
「オマエなあ・・・」
「激有り得ないだろ」
「ジロー、なんか変なもんでも食った!?」
「変なこと言わないで下さいよ」
みんな、あとべまで揃って否定して。
「「「「(さん)は日吉にぞっこんなんだぞ(ですよ)?」」」」
「ぞっこんって・・・古いしー」
がひよしのこと好きなのは知ってるけど。
ひよしだけじゃなくて、他のみんなのことも大切にしてるし好きなんだと思う。
それで、どんどん自信がなくなってく。
なんか溜め息出る。
「どしたのジロちゃん?疲れた?」
「お帰りなさい、さん」
「ただいまー。もうね、完璧。人が寝てるようにしか見えない・・・かもしれない」
笑いながらこっちへやって来る。
すこし湿った巻き毛が歩くたびにぴょこぴょこ跳ねる。
ベッドに座ったおれの頭をくしゃっと撫でてくれて。
嬉しくて寂しくて思わず抱きついたら。
ちょっと困ったようには視線を上へ向けた。
誰もなにも言わない。
言わせてあげない。
しばらくそのままでいたけど。
は強引におれを引き剥がして、また元の椅子に座った。
おれもちょこちょこと駆けていって、の膝に座る。
小さいのって意外に便利。
「ジロちゃん、あたし煙草吸いたいんだわ」
「いいよ。このままで」
「ジロちゃんの髪、臭くなっちゃうし」
「いいよ。といっしょの匂いだしー」
ほんとだよ。
どうでもいいんだ、匂いとか、煙とか。
の側にいられるんだったら。
「じゃあお言葉に甘えて」
「密室で吸おうとすんなよ、俺は嫌だぞ」
「けちくさいなぁ、亮ちゃん。ジロちゃんを見習いたまえ」
「そーだそーだ!」
調子に乗って便乗してみたりして。
「とにかく俺は嫌だ」
「んーがっくん!今こそ人間空気清浄機という隠し芸を披露するときだよ!」
「うわあ、頑張って下さいね、向日さん」
「俺はそんな隠し芸持ってねえよ!」
「あっ!オマエどさくさに紛れて吸ってんじゃねえぞ!」
「無礼講だよ、無礼講」
「なんでも無礼講で済まそうとすんな!意味間違ってるだろ」
あははとが笑って、ちょうたろうが笑って、がっくんが笑って、ししども笑って。
あとべは安心しきった、やわらかい表情で。
そんな様子を見てたら不安とかどうでもよくなってきて。
の煙に包まれながら、おれは眠った。
「来たな」
「バタバーさん、大丈夫かな」
あとべの声?それからの不安げな声が聞こえてきて、おれは目を覚ました。
の左腕が、膝の上で眠ってるおれを支えてくれてて。
そんなちょっとしたことが、やけに嬉しい。
「どーしたの?なんかあった?」
「あ、おはようジロちゃん」
「でかい声出すんじゃねえぞ」
向かい側の椅子に座ってるあとべの顔が険しい。
月はいつの間にか雲に隠れてて、窓から見える道にいななく黒い馬が見えた。
いつだったか、おれたちを追ってきたのと同じ黒い馬。
『なずぐる』?とかそんな名前の、指輪を狙ってるっていう。
「見つかっちゃった?」
「平気だろ。細工はしたし、やり過ごせる」
ちらりと見ると、他の3人はもうベッドで眠ってた。
やっぱりみんな小さくて、変な感じ。
「とあとべは寝なくていーの?」
「あたし夜型だし、ベッドもないし。みんな疲れてるでしょ?」
うそ。だってあとべだって疲れてるくせに。
「でも、あとべだってなんかあったんでしょ?」
「ねえよ。俺様は仲良くと平和に此処まで」
「だって血のにおいするしー」
二人とも、嘘吐くのへたくそ。
こうやっての膝で微睡んでると、そんで向かい側にあとべが座ってると。
子どものころ、母さんの膝でずっと寝てたときのこととか思い出す。
父さんと母さんが二人で他愛もない話をしながら、おれは夢の中でそれを聞いてて。
「ちゃんと拭いたのにね」
「ああ。犬かよ、ジローは」
「えへへー」
「褒めてんじゃねえからな」
そのとき誰かが乱暴に階段を上がる音がして、おれたちは口をつぐんだ。
が静かに煙草の火を消して、両腕をおれに巻き付ける。
怖がってるのを見透かされたみたいで。
冷え切ったの身体を背中に感じながら、おれもその腕を握った。
だってきっと怖いんだから。
それなのにおれや、ししどたちの心配を真っ先にしてくれる、。
いつか大好きなんだって、伝わる日が来ればいいな。
ものの5分もしないうちに、奴らは慌ただしく階段を下りていった。
黒い馬に乗って何処かへ去っていく鎧だけの人影を見送って。
それも見えなくなってから、はもう一度煙草を吸い始めた。
「それで。あとべの血はなんで?」
「・・・オークに襲われて、俺様が華麗に切り捨てた」
「怪我してない?へーき?」
「そんなヘマしねえよ」
『オーク』ってなんだっけな?とかそんな疑問はどうでもいいや。
とにかく
「おれが見張りするから、寝なよ」
おれは寝貯めた分があるからへーきだし。
「そうだよ、べ様寝た方がいいよ」
「も!」
「だからあたしはまだ眠くないんだってば」
「俺も平気だっつってんだろ」
「あとべのあほー。いじっぱりー。かっこつけー。」
「べ様が元気じゃなかったらみんな困るんだよ?一蓮托生なんだよ?」
がそう言うと、あとべはぴくっと反応した。
あとべってば単純だなあ。
「あたしも困るし」
「寝る」
「「おやすみー」」
俺とが笑顔で手を振ると、あとべはちびっこい3人を端に押しやってベッドに入った。
すぐに寝息が4人分聞こえてきて。
「やっぱりあとべ、眠たかったんだね」
「そうだね。ずっと気も張ってたみたいだし、無駄に責任感強いから」
はちゃんとあとべのこと見てる。
もしかしておれのこともちゃんと見てくれてるのかな、そうだといいな。
曇り空から、また、月が覗いて、きれい。
「も寝なよ。おれ、ひとりでへーきだし」
「うーん、まあ、そのうち」
「いつもよりタバコ多いし、疲れてるんでしょ」
煙草の箱に伸びていたの手が、ぴたりと止まった。
きっと驚いてるんだろう、顔は見えないけど。
「もう一本吸ったら寝るよ」
しゅっとマッチを擦る音がした。
そうやって、何度目かの煙と一緒に。
「ジロちゃんも、頼りになって、優しくて、かっこいいってあたしは思うよ?」
ぼんやり、ひどくぼんやりと、の言葉が頭に染み込んでくる。
(あとべって頼りになるし、やさしいし、かっこいいよねー)
ちょっと恥ずかしくて、体温が上がる。
どうしよう、なんにも言えないや。
「あたし寝るね。ジロちゃんも眠たくなったら、あたし起こしてね?」
抱き上げるみたいにして膝から下ろされて。
そのままはソファに寝に行った。
起こすわけないじゃん。
だってにはいつも、馬鹿みたいにやさしくしてたいんだ。
いつの間にか、空には星が瞬いていて。
星に願掛けとか、効果あるのかな。
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