「俺かて大変やってんでー」
とか誰に言うてみても、帰ってくる返事は決まって
「ふうん」
ちゅう失礼、素っ気ない、アホ、を地で行くもんで。
誰も聞いてくれへんから、こっちから話すことにした。
には言わんとこって思てたのにな・・・。
男はかっこええところをひけらかしたらあかんねん!
俺のポリシーやねん!
17 The Wizard
物事に動じひん、適応能力が高いところが、俺の長所やと思う。
せやし、飛行機が光ったあとも。
気が付いたら訳の分からん場所にいたことも。
驚かへんかったちゅうたら嘘やけど、割りとすぐに納得して。
右も左も分からへん土地で、なんのかんの騒いでもしゃあないな、と。
馬の進むに任せて走っとったら。
な ん か 白 い じ い さ ん お っ た 。
ファンタジーの世界や・・・・・。
しかも白いじいさんはなんでや知らんけど俺のことを知っとって。
「来ると思っていたぞ、オシタルフ」
いや、待ってえや!嘘ちゃうねんで!
ほんまにじいさんそう言ってんもん!
俺のこと見て『オシタルフ』言うてんもん!
すっごいネーミングセンスしとるわ、ほんま。
「来ると思ってたって、俺あんたのこと知らんねんけど・・・」
「このサルマンを知らんだと?耄碌したか、オシタルフ」
「してへんわ!ああ、ああ、サルマンさんやな、思い出したわ。
あれやろ?白髪のサルマンちゅうて有名やん?」
「そうそう、白髪の・・・違うわ!白のサルマンだ!」
「年のわりにノリツッコミ上手いやん」
「もういい!アレであろう?指輪のことで話があったのであろう?」
「そうそう、指輪の話で来たんや」
適当に話を合わせつつ、俺の賢い頭がフル回転。
指輪・・・エンゲージリングでもなければ、ワークシェアリングでもなくて。
『ロード・オブ・ザ・リング』か。
「ああ、ガンダルフでオシタルフでおっさんはサルマンやな?」
「先刻からそう言うておろう・・・・!?」
「やんなー?サルマンっちもそうやって言ってたやんなあ?」
・・・・・・・・俺、めっちゃ危険な状況ちゃうん?
サルマン言うたら敵やったんちゃうんか?
なんか立派な塔に住んでて、其処にガンダルフが行ったら軟禁されて。
もしかしんでも俺、オシタルフやし。
あ、魔法使いやから杖持っとってんな、気付かんかった。
侑士のお・ば・か・さ・ん!(の声)
「さて、話も粗方済んだし、帰るわ。さいなら」
嫌や、俺は危ないところになんぞ近寄りたくない!
ましてや軟禁なんかまっぴら御免のプレイスタイルやし。
馬に乗って引き返そうとしたら襟首を掴まれてもうて。
「まだなんの話もしておらん」
とまあ、ずるずるずるずる塔の中に引き摺られていった。
「冥王・サウロンの力が増してきている」
「へえ、そうなんや」
「いまやモルドールは膨大な兵力を所持して、機を窺っている」
「おお、こわ」
「こちらに勝機はない」
「そりゃ大変や」
ああ、ほんま早く帰りたい。
早く帰って裸エプロンのに出迎えて欲しい。
こんな辛気くさくて胡散臭いじいさんとこれ以上話したくない。
「というわけで、オシタルフもサウロンと手を組まないか?」
なんやぼけっとしてる内に、サルマンはちゃっちゃと話を進めてて。
なにが『というわけ』なんか。
なにが『手を組む』なんか。
むしろどっちがサルマンでどっちがサウロンなんか。
わけ分からんながらも。
「嫌やし。なんで俺がそんなことしなあかんねん」
ということだけは確実に言えることで。
「サウロンと手を結ぶしか、生き残る術はないぞ」
「そんなこと言われても、めんどくさいし。はよ帰りたいし」
そしたら、地雷踏んだ。
「見損なったわ、オシタルフ!生きて此処から帰れると思うなよ!」
ちょお待ってや。
俺、ほとんどなんも言ってへんやん・・・・・!?
こっちが止めるのも聞かへんあたり、相当大人げないじいさんや。
見た目はじいさん、頭脳は幼児化現象、その名は白の魔法使いサルマン!
とか、たか山みなみのモノマネしとる場合やなくてやな。
どうしよ、俺も魔法で対抗した方がええんやろか・・・・?
そうやんな、俺魔法使いやねんもんな。
さあて、呪文どないしよ?
サルマンじいさんは既に杖構えて、むにゅむにゅ口動かしとって。
緊急事態やけど、そんなときに限ってなんも思いつかへんし・・・・。
「かあっ」
と、サルマンが杖を振り上げた瞬間、咄嗟に出てきたんは。
「グラビデ!」
ちゅうね。スクえア・エニックスさんの黒魔法ね。
ま あ 効 く わ け な い ね ん け ど !
当然、俺だけが吹き飛ばされて。
そのあとも何個か呪文を試してみたけど。
呆気なく捕まってもうたわけで。
「高いわあ・・・・ヒモなしバンジーしたら確実に死ぬわあ・・・・」
なにこの塔、100メートル超やん。
そないな塔のてっぺんに放置とか、イジメ以外の何物でもないやん。
どうしよ、どうやって脱出しよ。
映画でガンダルフどうしてたんやっけなあ。
まさか『勇気ある垂直降下』したわけないやろし。
けど脱出しなサルマンじいさんに殺されそうやし。
あーあ、死ぬ前にいっぺんでいいから、
「侑ちゃん」
とか語尾にハートマーク100万個ぐらいつけて呼ばれたかったわ、に。
もうなんか雰囲気だけで三途の川見える。
堪忍なー、じいちゃん。
俺もうそっち行くわ、自主的に、半強制的な自主性に任せて。
「ぐわあ」
ああ、そうそう、ウズラのたまちゃんもそっちにおるねんなあ・・・・。
「ぐわあ、ぐわあ」
「たまちゃん、エライ声変わりしたやんか・・・」
もっとこう、ぴちぴち鳴いとったやんか・・・・・て、うわあ。
た ま ち ゃ ん デ カ 。
これ確実にたまちゃんちゃうわ、見ず知らずの鷲やわ。
「もしかして助けに来てくれたん?」
突然現れた鷲さんに尋ねると、鷲さんは頷いて。
遠慮なく。遠慮のえの字もなく。鷲の背中に飛び乗った。
そんで裂け谷に辿り着いたと、そういうわけや。
あれ?みんな寝ながら俺の話聞いてるんは、なんで・・・・?
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