「うわあ!これ全部貰って良いの?」
「ええ。エルロンド卿からの贈り物です」
ざっと見ただけでも凄い量の品々は。
エルフさん仕様なだけあって、どれもきらきらきらきら。
旅装束や櫛や髪飾りやなんのかの。
「それからこれも」
「?」
「いらっしゃい。稽古をつけてあげますから」


 21 The Fellowship of the Ring


「ちょっ!グロール、ストップ!ストップ!」
「あはは。なかなか筋が良くなって来ましたよ?」

あ は は じ ゃ ね え よ こ っ ち は 必 死 だ よ !

旅に出る前に死ぬなんて、ウサギの肉全身に浴びて、さらにエーゲ海に飛び込んで西郷隆盛の亡霊見つけて来いって言われるより御免ですから!
要するに無理!無理無理無理無理!

「剣で受けようと思っては駄目ですよ。避けるか、盾で受けるか」
「盾、重たいんだってば!」
「だから避ければ・・・」
「それが出来れば苦労しません!」

なんだってRPGとかの子は、あんな事も無げに剣やら盾を振り回してられるの?
マジ代わりたい、ベアトリクス様とかとマジで代わりたい。
そもそも剣が重たすぎて5秒以上持ち上げてるの困難!
も、分かった。
剣は捨てよう、いざというときまで捨てよう、防戦に専念して剣は捨てよう。
笑顔で剣を振り下ろしてくるグロールの隙を窺って、剣を鞘に戻す。
そしたら両手で盾が持てて。

あ、なんだ、最初っからこうしとけば良かったんじゃないの?

、それはちょっとあんまりじゃねえ・・・?」
「いやいやいやいや名案でしょ!
 攻撃も防御も中途半端になるくらいなら、あたしは防御を取るよ、それでいいよ、イエス!
「そうやでがっくん。亀みたいでおもろいやん!

側であたしとグロールの様子を観察していたがっくんと侑士は。
人ごとだと思ってお菓子を食べながら勝手な意見を。
お?えいっ。でもちょっと。ほっ。動くのが。はっ。楽になったような。いよっと。
おお!もしかしなくても避けてる?あたし避けてる?

「なかなか良くなってきましたよ」
「実力ですよ、じつりょく」

ふふん。オークでもトロルでもサウロンでもオベリスクの巨神兵でもばっちこーい!
、全力で避け、かわし、逃げてやろうじゃないの!

「あ、後ろにワカ殿が!」
「ピヨ!?」
「隙あり!」
「痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

後ろを向いた瞬間足払いを掛けられて、それはもう盛大にすっ転んだ。

「ピヨ居ないじゃない!グロールのアホ、馬鹿、かまぼこ!」
「引っかかる方が悪いんです」
「・・・・・サノバビッチ」
あかん!サノバビッチはマズイて、放送禁止用語やで!『ピー』入るで、『ピー』
「あーほ、あーほ、グロールのあーほ。さーる、ごりらー、ちんぱんじー」

悪かったね、罵りのボキャブラリー極貧で・・・・!

「あっはっはっは、なんとでも仰いなさい。今日はこれくらいにしておきましょう」
「あーほ、あーほ、あーほ、あーほ」
「オマエの方がアホなんじゃねえか?」

優雅に遠のいていくグロールを恨めしげに見つめていると、失礼極まりない台詞が。
地面に座り込んだままの体勢で、割りと近くに顔が見えた。

「顔に皺がないぶん脳みそはしわしわ・・・だといいな?
「有り得ねえから心配すんな」
「どうかな。亮ちゃんよりかはあると思うんだけど、皺」

地面に座りっぱなしもアレだから、がっくんと侑士が寛ぎすぎてるベンチにお邪魔する。

「ねえねえがっくん、そのクッキー欲しいな」
「ん。一個だけだぞ」

なんだかホビットになってからやたらお腹が空くらしく。
がっくんに限らず他のホビットの子もみんな、常におやつを携帯している。

「ありがと。ところで亮ちゃんはどしたの?用事?」
「ところで、その服めっちゃ似合っとるわ。帰ってからもその服着といてくれへん?
 こう、太腿に入ったスリットが・・・」
「うっさい、忍足星に帰れ」

エルロンド卿に貰った服は、動きやすさを重視してかどうかは知らないけれど。
まあ確かに軽くて動きやすいんだけども、このスリットと短パンはどうかと思う。
アレじゃないの?
明らかにエルロンド卿(43)の趣味じゃないの・・・?

「用っつーか、なんつーか・・・」
「ん?辞世の句でも詠みに来た?
「勝手に人を殺そうとすんなよ!もういい!に会いに来た俺がアホだった!」
「ちょっ!短気!亮ちゃん短気!ほら、何でもドンと来なさい!」

亮ちゃんを慌てて座り直させて、ドンと自分の胸を叩いたところ。
どうやら当たり所が悪かったらしく、若干の吐き気が込み上げてきた。

「けほっ、それで?」
「あー、なんかこんなもん貰ってよ」

そう言って見せてくれたのは、なんだかきらきらと光る肌着的な何かで。
お幾らかしら?というのが、当然の如く浮かんできた疑問。

「それからこっちも」
「まだあるの!?」

次に取り出されたるは、また上等そうな剣。
うっわー、総額お幾らかしら?
チロルチョコ何個買えるか考えてしまうのは、悲しき貧乏人の性。

「剣はともかく、こっちの胴着?にやろうかと思って」
「宍戸が跡部みたいなこと言い出した・・・」
「がっくん、俺らだけはに貢がんとこな・・・」
「あたしが何時!誰に!貢がせましたか!」
「「毎日。みんなに。」」

ハ モ っ ち ゃ っ た 。

なんだそれは、人を悪女か財前なお美かのように言いやがりくさって。
違うし!
あたし立派な純情可憐乙女病弱の絵に描いたような女の子だもん。
むしろ絵にも描けないような・・・いやごめん、それは嘘だ。

「なんで?亮ちゃんが貰ったんでしょ?」
「そうだけど・・・。なんか激丈夫で多少なら攻撃くらっても平気なんだとよ、これ着てると。
 だから俺よりが着てた方が良いかと思って・・・」

「亮ちゃん大好き!」
「ちょっ、放せよ!馬鹿!」
「今すぐ区役所行こう!今すぐ区役所行ってピヨとあたしの婚姻届を出しがてら亮ちゃんとの養子縁組を届け出よう!ピヨのことは『ダディ』!あたしのことは『ママン』と呼んでも構わないわ!はい、いっぺん言ってみ?」
「い」
「ちょっと待って!やっぱり『お父様』と『お母様』に変更!」
「言わねえつってんだろ!」

えー、だって亮ちゃんよく見たら可愛いんだよ?
最初こそ縮んでてキモイとか思ったけど、見れば見るほどなかなかどうして。
こんな子ども居たらママ溺愛しちゃうかも、的な。

「やる」
「要らない」

とは言え、貰う貰わないは、可愛いのとは別の問題で。

「誰が死んじゃっても嫌、というかそんなの考えたくもないんだけど。
 でも一番死んじゃ駄目なのって亮ちゃんだし、一番危険なのもたぶん亮ちゃんだし。
 気持ちは嬉しいけど、あたしが貰っちゃうわけにはいかないよ」

亮ちゃんの胸元に、鎖に通された指輪がちらつく。
きっとこの旅でいちばんの重荷。

「けどが」
「いやいやほんとに。ほんとに気持ちだけで十分だから!」
「そうやで、宍戸。やったら俺が守るし」
「俺も俺もー!だからそれは宍戸が着とけって!」
「平気だってば二人とも!あたしが護身術(?)習ってたの見てたでしょ!?」

お陰で無事に『カメさん防戦法』を習得したんだから!
守って貰うなんて、それじゃあ一体何のためにグロールのしごきに耐えたのか・・・

「いや、見てたから言うてんねんけど?」

「は?」

「あんなんで無傷で済んだら奇跡やわ。神のご加護やわ」
「ていうか、もしかしてあれで戦うつもりだったんだ・・・・?」
「・・・・・・いけませんでしょうか?」

「「「絶対無理」」」

う わ あ 素 で 凹 む ・ ・ ・ 。
普通に『あたし最強じゃねーの』とか思ってたんですけど。
『フハハ、小僧!』ってなもんだったんですけど。

「やし8人みんなで守るし」
「なんで一人除いてんだよ」
「や、宍戸は無理かなあと」
「俺も入れて9人だ」

なんて侑士と亮ちゃんが揉めてるのも、嬉しいような悲しいような。
嗚呼、『一億総べ様計画』でも持ち上がってるんだろうか。
それともあたしの知らないところで。
ちゃん甘やかし隊』でも結成されてるんだろうか。
とってもやるせないね、カーネルおじさん。

「ほどほどにお願いします・・・、ありがとう」

所詮、あたしの思考回路の基盤は『人生総投げ遣り計画』なので。
否定するのも面倒で、投げ遣り計画に乗っ取って頭を下げた。
『守られるのが嫌』なんて殊勝なお姫様にはなれそうにない。
ていうかそもそもお姫様になれる見込みがない。



あっという間に出発の朝が来て。
長旅になるだろうというのに、手荷物は驚くほど少ない。
あたしたちの代わりに仔馬のビルが、たくさんの荷物を背負ってついてきてくれるそうだ。
身体に纏った武器の他に、小さな鞄がひとつだけ。

「いろいろとお世話になりました」

見送りに出てくれたエルロンド卿に深々とお辞儀。
顔は榊太郎(43)だけれども、ほんとに良くして貰って。
有り得ないことに、エルロンド卿とお別れするのが寂しかったりもして。
学校形式の丁寧なお辞儀を終えると、エルロンド卿はダンディに微笑んだ。

「次に会うのを楽しみにしている」
「あ、はい。こちらこそ」

一瞬、会いたくないと思ってしまってごめんなさい。

「オラ、行くぞ
「うん。それではエルロンド卿も、グロールも、皆さんお元気で」
「御武運を」

裂け谷の端、すっかり揃ったあたしたちにエルロンド卿は言った。

「それでは皆、行ってよし!」


言っちゃったぁ・・・・っていう。