「ところで突然だが」
裂け谷を出て初めて拓けた土地に出たところで、跡部がマジで突然言った。
何なんだよ早く行こうぜ、とも言い出せない雰囲気で。
何かと思えば。
「は除くとして、おまえら戦えるんだろうな?」
あはは、どうだろ?・・・・・限りなく微妙に近いイエス?
22 Actually, Can We Fight?
今のところって言ってもまだ小一時間程度しか歩いてないけど。
運が良かったのかエンカウンター率が低いだけなのか、とにかく敵には遭遇してない。
ずっと森の中を歩いてたからっていうのもあるのかも。
平原は見通しが利くけど、逆に敵にも見つかり易いんだろうし。
いきなり襲われて、『ハイ、戦えませんでしたー』はちょっとキツイ。
「俺腕力ないもーん。魔法使いやもーん」
侑士、逃げの一手。
とジローは鳳が引いてるポニーと遊んでて、話も何も聞いちゃいない。
「俺、弓なら使えるよ」
滝は服装もだけど、弓を構えるのもサマになってて。
いいな、弓とかなんか格好いいじゃん。
つーかなんで弓とか使えるんだろ、滝は。
そういう役だからか?
「自分も、なんとか」
樺地が持ってるのは斧で、なんとなく納得。
「俺も大丈夫ですよ」
「居合いじゃねえんだぞ?」
「分かってますよ、馬鹿にしてるんですか」
居合い?ああ、日吉の家って道場かなんかだったっけ?
まあでもこれで、そもそもからして戦闘要員な跡部、侑士、滝、樺地、日吉の5人はそれなりに戦えるって確認出来て。
とジローは未だにポニーのビルと遊んでて。
長太郎はビルにつきっきりで。
こんな気まずい場所に放置されたのは俺と宍戸。
どうしよ・・・俺もビルと・・・
「向日はどうなんだ、アーン?」
こっそりひっそりその場を立ち去ろうとしたら、跡部に腕掴まれた。
クソクソ!オマエ聞かなくても分かってんだろ!?
「どうなんだ」
「あはは、それなりにぃ・・・ほどほどにぃ・・・な!」
「戦力外通告」
「なにそれ!?俺、山崎!?楽天行かなきゃじゃん!」
「意味分かんねーこと言うなよ」
「いやいや、分かれよ!俺、山崎好きなんだって!」
「ア?好きなんだったらいいじゃねえか。とにかく戦力外通告だ」
好 き だ か ら 嫌 な ん じ ゃ ん ?
応援してた選手がいつの間にか楽天に居た哀しさ?驚き?哀しさ?
『引退してなかったんだ・・・』という嬉しくも寂しい感じのする困惑?
『楽天がんばれ』と素直に言えない自分への苛立ち?
ああ、なんか話逸れた上にしんみりしてきた。
「俺様はと宍戸以外の面倒見切れねえからな」
「分かってるよ!護身ぐらいは出来るって!」
「ハッ、どうだかな」
俺って信用無いのかな・・・。
跡部は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ちゃっちゃと鳳たちの方へ歩いていった。
は言わずもがなだし。
ジローは器用そうだし。
鳳は力あるしなあ・・・。
もしかしてこれ、俺だけ軽くヤバイ?
「侑士ー、魔法ってどんなの使えんの?」
「目下のところえふえふシリーズ完全制覇目指して勉強中や」
「じゃあさ!俺、強くできる魔法とかない?」
『フェイス』とかあるじゃん!
それで問題も一発解決じゃん!
「残念ながら白魔法は範疇とちゃうねん」
あー、もう、何ソレ、使えねー・・・・・。
とりあえず山越えをするって跡部が決めて。
カラズラスとかいう山目指して、南に歩くこと一日。
日が沈み掛けた頃、適当な場所が見つかって其処で野宿することになった。
「がっくん、御飯だよ?一緒に食べよ?」
少し離れたところにぽつんと座ってると、二人分のお皿を持ったがやってきて。
「またウサギさんらしいよー。べ様ウサギ好きなのかな」
「そうなんじゃね?俺も、なんか食べ慣れてきたけど」
「味は問題ないんだけどもね」
苦笑して、は俺の隣に座った。
またウサギの皮、剥ぐところでも見たのかもしれない。
アレは確かに気持ちいいもんじゃない。
皮剥いでも耳とかついてるし、骨格とかあるわけだし。
食べ始めた俺の周りに紫煙が渦巻く。
「って食前食後に絶対煙草吸うんだなー」
「いや、もうクセで。ピヨに『控えて下さい』って言われちゃったんだけど」
「あー、そうした方がいいって。てか、美味しいの?煙草」
厳密に言うとパイプ?
出発前にエルロンド卿(43)から貰ったとかいう、新しいパイプ。
「ん、それなりに。此処まで来ると中毒的」
前までは煙草吸うヤツなんか有り得ねーって思ってたけど。
たまたま好きになった人が吸ってたら、それはもう不可抗力で。
いつの間にかすっかり煙たいのにも慣れてる自分が居る。
親に「岳人、煙草吸ってるでしょ!?」とか言われたときはちょっと焦ったけど。
やっぱり服とか髪にニオイ着くし。
「煙草吸うような子と仲良くするのやめなさい」って言われたらどうしようかと。
でもそんなこと言われなくて、すごい安心した覚えがある。
「みんな好きなんだよ?」
「え?あ、ウサギ?」
料理にひとつも手をつけてないが、突然口を開いて。
「じゃなくて、がっくんのこと」
ぶはっと。
それはもう盛大に噎せ返って。
「ちょっ、汚っ。大丈夫?」
「おまっ、いきなり変なこと言い出すなよ!」
「いやいや、思ったことを言ったまでで・・・」
その『思ったこと』が唐突過ぎるんだって!
何それ、ゲイ!?テニス部総ホモセクシャル!?
「だから、なにかあっても誰か守ってくれるし。それも別にいいんじゃない?
がっくんにはもっと他に、戦う以外にも出来ることあるし」
ああ、こいつそんなこと言いに来たんだ、って思って。
そういう優しさが時々、ほんとに時々、すごい気に障る。
俺はが好きで、はどうやら日吉が好きらしいと。
でもそんな報われない気持ちを、助長するようなことばっかするから。
の所為じゃないって分かってても、やっぱり時々。
「なんて無責任なこと言ってみたりして」
「ってさー」
「誰かこっちに来てるよ!」
滝の一声が、俺の台詞を遮って。
何を言おうとしてたんだか、そんなことも忘れた。
「結構、数多いかな。2,30くらい」
「敵か?」
「たぶんね」
分かり切ったことをそれでも確認して、跡部はそっと剣の柄に手を掛けた。
みんなの間に緊張が走る。
も剣を握りしめてて。
あれだけ守るからって言ったのに、どうして戦おうとするんだろうな。
ひゅんっと、滝の放った矢が風を切って。
それに続いて、どさっと人の崩れる音がした。
『汝の隣人を愛せよ』だっけ?
そんなの無理だ。
俺は死にたくないし、それ以上にやみんなを死なせたくないし。
だから隣人だろうが何だろうが、いちいち愛してる暇なんかない。
「来るぞ」
「「「「「「「「よっしゃ」」」」」」」」
幾ら弱くても幾ら足手まといでも幾ら誰かが守ってくれると言っても。
俺だって誰かを守りたいと、思う。
もきっと、そんな気持ちなんだろうか。
暗闇から出てきたのはオークの集団。
距離の縮まってく間にも、滝がどんどんどんどん打ち倒してくれてて。
(洋剣は斬るんじゃねえ、叩き潰す、もしくは刺す。思いきりブチ込んでやれ)
要はラケットだと思えばいいんだろ!?
振るった剣に、重たい手応え。
あんまり良い感じはしないけど。
やらなきゃやられるって言うなら。
迷わずやる方を選ぶ。
他の連中を見てる余裕はなかったけど、確実に敵は減っていって。
俺の小さい身体じゃたいした攻撃は加えられないながらも。
剣を振るえば防御にはなるって分かった。
そして最後の一匹に跡部の剣と日吉の剣が同時に振り下ろされて。
うっわ、容赦ねえな・・・なんて思って見ると。
二人の後ろには息の上がったが立ってて。
なるほど。
「なんや、がっくんも結構やるやん」
急に声を掛けられて、振り返る。
「当たり前じゃん」
「安心したわ」
安心してもらわなきゃ困る。
「跡部と日吉にばっかりオイシイとこ、持ってかれてもええと思う?」
「良くない!」
「せやったら、次からはがんがん行かして貰うで」
そう言って、侑士はぽんと俺の頭に手を置いて。
まだまだ先は長いけれど。
|