よくよく考えてみれば、若はボロミアで。
もっとよく考えてみれば、ボロミアは旅の途中で
死んでしまう人なのだと思い出すことが出来て。
それって辿らなくてもいいストーリーなのだろうか。
24 Climb Caradhras Up
若のことだけじゃなく。
ガンダルフが火の中に落ちてしまうこととか。
つまり侑士が落ちてしまうってことで。
結局ガンダルフは強くなって戻ってくるけれども。
それから。
旅の仲間が解散してしまうことも。
だからって解散しなければ、後々不都合なことがたくさん出てくるわけで。
そうなると、逆に指輪を捨てるのが困難になるわけで。
父さん、富良野の冬は寒いですか・・・?
で は な く て !
アホかあたしは!ジュンくんの真似してどうする!
それもこれも『北ノ国から』なんか思い出してしまうのも・・・
「寒いからだよ!」
雪山が此処まで寒いとは、正直思ってなかった・・・かな。
これ確実に氷点下でしょ。
ていうか氷点下じゃなきゃ雪溶けるもんね・・・。
「それだけ着込んでて、まだ寒いんですか」
「着ぶくれ上等、だるまさん上等」
あたしがガッツポーズを作ると、若は呆れたみたく溜め息を吐いた。
なんかピヨって溜め息多いよね。
なんて思ってると、かさこそ、ピヨがマントを脱ぎ始めて。
路上ストリップかと、ドキドキわくわく待ってたわけだけども。
残念ながらマントしか脱いでくれなくて。
それから、脱いだマントをあたしの方に投げて寄越した。
「風邪でもひかれたら寝覚め悪いので。それ、どうぞ」
「どうぞって、嬉しいんだけども。・・・・この上にまだマントを羽織れ、と?」
旅装束の上に自分のマントをぐるぐると巻いて。
その上に景吾の貸してくれたマント。
その上にジロちゃんの貸してくれたマント。
さらにその上に侑士の(中略)、最後に樺地くんのマント。
あれだろうか、あたしにマント星人にでもなれと言うのだろうか。
「だって寒いんじゃないんですか。いらないならいいですけど」
「いやいや借ります!羽織らせて頂きます!お心遣いありがとう!」
「もうって言うよりマントじゃん・・・」
「それは言わないでがっくん・・・。寒いんだもん、しょうがないじゃん」
エルフさんの作った繊維がどれだけ軽いか知らないけれど。
10枚も身に着ければそりゃあ重たい。
少しずつ、足元の雪も深くなってきて。
「ー、手、繋いだらあったかいかも!」
前を歩いてたジロちゃんが可愛らしく走ってきて、あたしの右手を取る。
「の手、すげー冷たいしー」
「自慢じゃないけど末端冷え性および末端以外も冷え性なので」
「ほんとに自慢になんねえな、ソレ」
今度は後ろから亮ちゃんと長太郎が走ってきて。
知らないうちに、何故か長太郎があたしの左手を掠め取っていた。
両手にキッズっていうのもなかなかオツなもので・・・。
「うわあ、ほんとに冷たいですね。大丈夫ですか?もしかして変温動物ですか?」
長 太 郎 っ て た ま に 誰 よ り も 失 礼 だ よ ね 。
冬眠とか、出来るものならしてみたい・・・。
どうせ変温動物になるんだったら両生類が良いな。
幻のカエルとかが良いな。
そんでピヨ似のカエルマニアに探し求めて貰うの。
なんて、そのまま寒いながらものんびりほのぼの雪山登山。
山の中腹、勾配が緩やかになったあたりで、亮ちゃんが突然立ち止まった。
「どしたの、亮ちゃん」
亮ちゃんは返事もなく、首元を必死に指で追っていて。
嗚呼、嫌な、嫌な予感がする。
きっとそれはみんな同じで、誰からともなく、彼に視線を向けた。
「宍戸さん、これ」
消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ性悪指輪。
だって亮ちゃんはちゃんと鎖に繋いで首から下げてたのに。
そんなの歩いてるだけで落ちたりするわけ無いのに。
誑かすために落ちたに決まってる。
若を引っ掛けるために落ちたに決まってる。
「落としまし、た、よ」
そんなこと告げるのに躊躇なんかしないでよ。
『落としましたよ』って。
「き「悪い!ぼけっとしてた!」
無理矢理明るい笑顔を作って、亮ちゃんが若に駆け寄る。
今なんて言おうとしたの?
亮ちゃんが遮らなければ、あなたはいったいなんて言った?
ジロちゃんがあたしの手をぎゅっと握ってくれて。
そうじゃなきゃ、たぶん泣いてた。
ばしっと、指輪を受け取る動作だけは荒っぽかったけれど。
亮ちゃんは終始笑顔で。
ゆっくりと、あたしたちの方へ戻ってくる。
たった一人、若の後ろにいた景吾が、先頭を行く侑士に目配せして。
再び歩き出す、なんにもなかったかのように。
「さん。大丈夫ですから」
言って、長太郎があたしの手を離す。
「そうだよ。行ってあげて」
ジロちゃんも繋いでいた手を離して。
泣いちゃ駄目泣いちゃ駄目って言い聞かせるように、心の中。
駆け出したい気持ちを抑えて、若の元へ。
無理矢理に若の左手を取って。
「なにするんですか」
「愛を育もうとしてる」
「勝手に一人で育んでて下さい」
あはは、このつれなさはいつものピヨだ。
ていうか何だこれ。
どうして余分なとこだけ忠実に映画の再現してくれようとしてんの?
誰か頼んだか!いや、頼んでない!
「ピヨってね」
「なんですか」
「んー、ピヨって映画見たのかなぁと思って。ロード・オブ・ザ・リング」
「本なら読みましたけど」
言われた瞬間『性格の不一致で離婚』という週刊誌の見出しが頭の中で阿波踊り。
いや待て。
性格の不一致ぐらい多大なる愛情と溢れんばかりの技術でカバーしてやる!
でも、本読んだってことは、筋は知ってるはずで。
ってことは、ボロミアがどうなるかも知ってるはずで。
この子、今どんな気持ちで居るんだろうってちょっとだけ思う。
「そういえば活字無理なんでしたっけ、さん」
「無理というか、なんか小学校とかで夏休みの課題図書とかあるでしょ?」
「ありますね」
「それをねえ・・・担任の先生に借りたんだよね、小6の時だっけか」
そのころ既にママンたちはあたしを放置プレイ。
どんな親だよ、軽く虐待だよソレ。
というのはさておき、そんなこんなでお金もなく。
景吾に本買ってなんていうのも癪だから、担任に借りたという、ね。
「それで何がどうしたって言うんですか」
「夏休み終わって、本も読んだし感想文も書いたし、『うわ、あたしってチョー優等生!』とか思いながら、意気揚々と学校に赴いてやったわけ。本持って。そしたら新学期早々自宅謹慎1週間とか言い渡されちゃって。義務教育なのに非道くない?人権侵害!」
「貴女はいったい何したんですか・・・」
「 本 が 受 動 喫 煙 を し て し ま っ て で す ね 」
嗚呼、これが副流煙ってヤツか・・・ということを12歳にして知った夏。
ある意味早熟、ある意味ひと夏のアバンチュール。
ピヨとじゃなくて、黄ばんだ本との。
「そんなときから吸ってたんですか」
「あっはっは。最早ライフワークだよね。永久就職。日吉」
「意味が不明なこと言わないで下さいよ」
「やんちゃかつやさぐれた心がニコチンというオアシスに向かっちゃって」
「馬鹿なんじゃないですか」
それ、小学校の校長にも言われた・・・。
あまりにもかっちーんと来ちゃったから『ヅラなんじゃないですか』って言ったらば。
本来謹慎3日だったはずが1週間に延び。
あまりにも自宅がアレなんで、1週間跡部邸で素晴らしく快適な日々を送ったのは。
此処だけのひみつ。
墓場まで持って行く予定。
「アンモラルなことに純粋な楽しみを見出していただけです」
「だからそれが馬鹿なんですよ」
「やだ、ピヨ小学校の校長にそっくりだ」
「・・・・・・・・・」
「そう言えばどことなく毛根の現状を疑わせるような髪型も・・・」
「・・・・・・・・・変ですか」
「う、え!?」
なんだ今のは、空耳でしょうか。
「だからこの髪型ヘンですかって聞いてるんです!」
う っ わ あ !
「きゃはははははははははははははは、可愛い!ピヨ可愛い!」
「もういいです!切ります!」
「ええええええええええええええええええ!?」
「なんなんですか、奇声を発するのはやめてください」
カローラ新色デビュー、フォルクス・ワーゲン新色デビュー、ピヨ新色デビュー(赤)。
あたし試乗します!
絶対試乗してそして乗り逃げします。
「絶対切っちゃ駄目!限りなく変に近いけど、そこが好き!」
「貶してるんですか」
「褒めた」
「どうですかね」
「褒めました」
嗚呼、もうほんと好きだなピヨ。って再認識したは良いのだけど
あたしって何しに来たんだっけ、ピヨのとこ・・・・
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