標高が上がれば上がるほど寒さは増していって。
みんなもそろそろヤバイでしょ、って思って借りてたマントを全員に返して回った。
ちょっと血液系統リンパ液系統悉く凍りそうな気がしてるけど。
大丈夫、それくらいで人は死なない・・・・はず。
25 Climb Caradhras Down
「、ほんとに大丈夫かよ・・・」
「だぁいぢょおう゛」
がっくん良いね、君あったかそうで良いね、良いね良いね。
「ハイ、そのポーズ良いねえ・・・」
「もう駄目じゃん!なんか目が死んでる!つーか脳みそ凍ってる!?」
「脳みそはまだ平気なりぃ。ヤバイのは体液の方なり・・・」
あああああ、なんか幻覚見えててもおかしくないよ。
もしかして目の前にいるのがっくんじゃなくてブチャラティなんじゃ・・・。
きっとそうだ、心なしか『アリーベデルチ』って言ってる気がする。
「スタンドぉ、スタンド見せてぇ・・・ブーチャ、ブーチャ、ブーチャ(掛け声)」
「ちょっ、さんッッッ!?
ブチャラティじゃありませんよッッッ!?向日さんですよォォォォ!?」
「長太郎の台詞も心なしかアラ木風・・・・。ていうか長太郎?え?もしかしてゴールデン・・・・」
「ゴールデン何ですかッッッッ!?しっかりしてくださいよォォォォォ!!」
「や、もうほんと分かってるから。長太郎じゃなくて、ヒロ彦が描いた長太郎風の何かだ」
「うわァァァァ、さァァァんッッッ!!」
じょじょ、ほとんど読んだことないのにな・・・。
幻覚の中にまで進出してくるとは。
嗚呼、考えれば考えるほど絵柄までヒロ彦風味に・・・。
「ー!!死んじゃだめぇぇぇぇ」
「嗚呼いらっしゃい、可愛い子羊さん人獣型・・・。
そうなのね、あなたもチャッパーと同じ悪魔の実を食べたのね・・・」
そうか魅惑のジャンポワールドだな。
さっきまでのがヒロ彦ゾーンで、此処からはオ田さんゾーンなんだな。
寒いのはドラムン王国に居るせいか・・・。
「だめぇぇぇぇぇぇ」
「子羊さんは何段変化出来るの?」
「!オマエ戻ってこい!こっち戻ってこい!」
「うひゃあ!みっちゃぁぁぁん!!」
ほんと君が好きだと叫びたいです!
出来れば湘ホク高校に入学したいです!
アヤコちゃんの後輩として生暖かくバスケ部を見守りたいです!
「みっちゃんって誰だよ!?」
「三井ひさし。好き。好きすぎ。不束者ですが宜しくお願いします。」
「え・・・!?お、おう。こちらこそ・・・」
「あかん!、それみっちゃんとちゃうで!宍戸やで!」
え?みっちゃんじゃ、ない?
あら嫌だ、あたしったら勘違い?
「出たぁぁぁ!!ピョーッと吹くジャガさんの・・・
えーっと、たか・・・?高なんとか不動とかいう人!」
あの眼鏡、あの髪型、それからなんかリコーダーとか吹いてそうな顔!
『だばさっ』って効果音が聞こえる!気がする!
ちょっと古いって言われても、『だばさっ』って聞こえる!気がする!
「あかん、完全に世界違っとる・・・。行け樺地!を助けるんや!」
「ウス」
「と、と、と、と、戸愚呂おとうと来たぁぁぁぁぁ!!ヒ影!!飛エイどこっ!?」
何としてでもあの邪眼を拝まねば!
ああ!ヤンキーの教祖・しずるさんにもお会いせねばっ!!
「ちょっ、、落ち着いて」
「さてはリッボーンの・・・?あの、ダイナマイトの・・・?」
「残念ながら違うかな・・・」
「あっ、そうですか。失礼いたしました」
「いえいえ、どういたしまして」
「滝さん何やってるんですか。さん、俺ですけど分かりますか」
この見覚えのあるようなないようなキノコ頭は・・・。
「モーがン大佐殿のお坊ちゃま・・・?」
またもやオ田さんゾーンか!
かくなる上は三時さんをプリーズ!三字さんプリーズ!
あたしを3枚にでも5枚にでもおろしてちょうだい・・・!!
「!俺様が分かるか!?」
「いえ、あの、少女マンガ系統はさっぱり・・・」
「いい加減マンガから頭離せ!あ・と・べ!跡部景吾だ!」
「あとべけいご・・・。ああ!ライオンぐみのけいちゃん!?」
「そうだ」
「いっつもポッキーくれて、あたしを餌付けしようとしてたけいちゃん!?」
「・・・そうだ」
「お昼寝の時間はヒョウ柄のタオルケット持ってきて、
執拗にあたしに添い寝を強いたけいちゃん!?」
「・・・・・・そうだ」
「大きくなったらあたしを愛人にしてくれるって言ってたけいちゃん!?」
「・・・・・・・・・そうだ!」
「 嘘 吐 け 。 け い ち ゃ ん は も っ と 可 愛 い ん だ ぞ 」
その瞬間、何かがあたしの脳天にクリーンヒット。
・・・何だこれ、痛いじゃないの。
「いきなり雪玉はちょっと・・・」
「「「「「「「「「帰ってきた!?」」」」」」」」」
はあ?
「何それ、あたし何処も行ってないよ?」
「!俺分かる!?」
「え?がっくんでしょ?え?」
「うわーん!お帰り!お帰り!」
が っ く ん 号 泣 。 そ の 他 も ら い 泣 き 。
何かの集会かな?
嫌だな・・・政治団体および思想団体とは一切関わりを持つまいと・・・。
「良かったですねさん!良かったですね!
もういいですから!遠慮しないで俺のマント使って下さい!」
「んー?あー、そりゃどうも」
何故か非常に嬉しそうな顔をして、さっき返したはずのマントをまた貸してくれる長太郎。
それを皮切りに、ぞくぞくとマントの波が押し寄せて。
結局またマント星人状態。
もうなにがなんだか、お姉さん展開についていけないわ。
「つかぬことをお聞きしますが、もしかしてみんな、暑かったの・・・?」
「ほんま覚えてへんの・・・?自分」
「覚えてるも何も、寒くて死にそうで」
「ほな、もうええねん。とにかくそれ着とき」
無性に切ない顔をして、侑士が涙を拭っている。
いいのかな、そりゃあたしはこの方が助かるけど、みんな寒いんじゃ・・・。
「山下りる」
なんて周囲の面々を窺ってると、景吾がまた訳の分からないことを言い出した。
え?山下りたらモルドール行けないんじゃないの?
「「「「「「「「賛成!」」」」」」」」
「え?」
どうしてみんな、さっきからこう息が合ってるんだろう。
こんなだったら合唱コンクールとか出ればいいのに。
「オイ、そこのアホ、行くぞ」
誰のことでしょうか。
心当たりなんか微塵も御座いませんが。
「だ!!行くぞ!」
「え、あたし!?」
「マジ頼むから来いって!」
「はい、ただいま!」
なんだか突き刺さる視線がすごい痛かったので。
不承不承、べ様に連れられるまま下山の途に着く。
たいていの登山は下りが大変で、膝が笑うとかよく言うけれども。
今回ばかりは、やっと寒さから逃れられるというのの嬉しさが勝って。
場を包むあまりの沈黙は不可解だったけれども。
「ねえべ様、下山してどうするの?」
「アーン?モリアの坑道だ」
「もりあのこうどう?」
「映画でも通ってただろ。アレだ、あのガンダルフが落ちるところ」
べ様の口振りは至極淡々。
「それって侑士、落ちちゃったらどうするの?」
「その時はその時だ」
「んー・・・・ごめんね、山下りるのってあたしの所為なんでしょ?」
「いいんだよ、最初っからそんな期待もしてなかったし」
ずぼずぼと、足を埋める雪のかさが徐々に低くなってきて。
それにつれて歩きにくさも。
それから寒さも少しずつだけれど和らいでくる。
「もし忍足のヤローが落ちることになっても、の所為じゃねえからな」
「そんなに割り切れないよ。・・・侑士が落ちないように気をつけとく」
落ちたって死にはしないのかもしれない。
でも、そんなことないのかもしれない。
今のところ、ストーリーと大幅にズレがあるようなことは起こっていないけれども。
侑士のが、例外にならないなんて言い切れない。
「落ちないっつうのも、マズイかもしれねえぞ」
「え?」
「なんでもない」
何がまずいって?
分かんないけど、とにかく。
あたしたち一行はカラズラスを後にして。
次なる目的地はモリアの坑道。
荘厳なるドワーフの地下宮殿。
願わくは、誰も傷付くことのありませんよう。
それから、侑士が危険な目に遭いませんよう。
日は暮れて、そしてまた日が昇る。
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