31 Divorce


恐怖を感じていたのは。
自分に与えられている運命を。
知らず知らずの内に忍足さんのそれと照らし合わせていたからだ。
忍足さんがバルログを前に。
杖を振り下ろした瞬間、悟った。

この人 は 死なない  と。

忍足さんの元へ駆け寄ろうとするさんを跡部さんが抱きとめて。
同じように俺は、向日さんと宍戸さんを押さえつけた。

がらがら。

聞こえるはずの音もなく橋が崩れ落ち。
まずはバルログが奈落の底へ落ちようと。
そして忍足さんが踵を返した瞬間。

オレンジ色の縄が。
その人の足に絡みついた。

転落はあっという間。
重力に引き摺られながらも、崩れ去った橋の淵にしがみついて。



「待っといてな、帰ってくるまで」



そう言い残して。

忍足さんの姿は見えなくなった。

震える手で向日さんを抱え上げ、宍戸さんの襟元を引いて。
さんの肩を抱く跡部さんに続くように。
全員が其処から引き揚げた。



死ぬことを怖れないからといって、死にたいわけなどなく。
そもそも俺は、死ぬのが怖い。

どうすればいいのかが分からない。
自分のことも、それから。


久し振りに見た空は、あいにく、雲に覆われていた。