なんていうか正直な話。
キヨくんの話で王様の方はだいたい見当がついていて。
ひと目見て『嗚呼やっぱり』と思ったのだけども。
怖ろしい女王様の方には心当たりが無くて。
ついうっかりキモイ男を想像してたものだから。
34 Lady Galadriel
「いらっしゃい、そしてご機嫌よう。
今すぐ再び旅路に就きなさい。今すぐ指輪を棄てに行きなさい」
えー、何処にもキモイ男いないしぃー・・・とか。
フツーにみんな綺麗なエルフさんだしぃー・・・とか。
慣れないギャル満開できょろきょろ全員の顔を眺め渡して。
けどそんな必要なかったんだね。
素晴らしい歓迎の言葉でほんと分かったもん。
骨身に染みて実感したもん。
キヨくんが言ってたのってこの人のことだ・・・。
「ちょっと、仮にもお客様なんだし・・・もうちょっとこう、控えめに行こうよ・・・」
「何がお客様だ。こんなむさ苦しい集団連れてきやがって」
「そうです、亜久津くんの言う通りです。
そもそも誰が怖いもんですか、全部聞こえていましたよッ」
キヨくんはじめその場に居たエルフの皆さんたじたじ。
あたし含む指輪のご一行もれなく唖然。
ていうかこんな女王様と王様、嫌すぎる・・・!
「だいたい千石くん、なんですか、そのみすぼらしい女は」
み す ぼ ら し い 女 で す っ て ェ ッ ! ?
言うに事欠いて『みすぼらしい』!
言うに事欠いて『女』!
ああ、ああ、悪かったわね!
どうせアンタよりみすぼらしくて華もなけりゃあオトメでもないですよっ!
「オイ、テメエのこと悪く言うと承知しねえぞ」
「そうだよ!!観月の言うことなんか気にすんなよっ!?」
「え?がっくん知ってるの?あの男」
「知ってるもなにも、オマエ、俺様の試合見てたんじゃねえのかよ」
「ええ!べ様あの男と試合したの!?いつ!?」
おかしいな、べ様の試合なら全部見てるはずなんだけども・・・。
あれかな、その試合に関しては葬り去りたい記憶だったとか?
そうだよね、高飛車な男のことなんか覚えてるわけないよねー。
「都大会のコンソレーションだったか?テメエが俺様に屈したのは」
「そんな過去のことは忘れましたね。屈したなどと言わないで欲しいものですッ」
こんそれえしょん、こんそれーしょん、コンソレーション。
都大会といえば、アレだ、亮ちゃんが負けたやつだ、たぶん。
あのころ亮ちゃん、まだ髪長かったんだよね。
「それが今じゃこんな、ざんぎり頭?」
「余計なこと思い出してんじゃねえよ・・・」
「でもかっこよかったって話だよ?亮ちゃんの断髪式」
「俺は関取かなんかかよ!断髪式言うな!断髪式!
だいたいなんでがそのこと知ってんだよ!?」
「漫画で読んだ」
「はあ?」
長太郎の証言を元にして侑士が描き上げた『漢・宍戸亮、決意の断髪式』。
身内をネタにした健全な同人誌が一時期テニス部内で大流行してた、とは。
知らぬが仏とか言うから、亮ちゃんには言うまい。
「ハッ、でもそうなんだ。女王様、べ様に負けたんだ。
なんだ、女王様たいしたことないじゃん。
ハッ、女王様しょぼーい、しょぼーい、女王様しょっぼー」
氷帝の子たちはみんな『よく言った!』って顔をして満足げだったけれども。
あたしの言葉にキヨくんは顔面蒼白で。
女王様は歯軋りおよび地団駄。
あっはー、チョーおもしろーい。
あたしのことを『みすぼらしい女』とか言いくさりやがった罪は、
たとえそれがほんとの事だとしても万引きより重いんだからね!
「なんぴとたりとも僕を侮辱することは許しませんよッ!
あなたのように庶民の香りがぷんぷんする女なんか論外ですッ!」
「ちょっとそれ撤回しろよ!アホ!誰が庶民の香りだよ!」
「あなたですよ、あなた。あれ?それとも違いましたか?」
クソムカツク〜〜〜〜。
「なんなのよ!こっちこそあんたみたいな
『一人で上京してきたは良いけど、来る時代間違ったぁ!!』
『むしろ時代どころか何もかも間違ってたぁ!!』的な奴に言われたくないよ!」
「なんですかその分かりにくい喩えは。馬鹿にはつける薬が無いって本当ですね。
おお嫌だ、ああ嫌だ。何処かのカレー好きと同じ匂いがしますよ、あなた」
「あたしはもう何年もカレーみたいな高級品なんざ食ってねえよ!」
「僕ほど高貴な人間になると、カレーなんて低俗なもの
生まれてから死ぬまで口にする機会なんかありませんけどね」
「もう怒った、もう怒った!ちゃんぷっつん来ちゃった!
それ行け、やっくん!今こそ、このスカポンタン女王様を滅ぼすのだっ!」
なんだこの女王様は、ちょっと顔が良いからって調子乗りやがって。
何が『高貴』だよ、何が『馬鹿にはつける薬がない』だよ!
どうせ下賤でどうせ馬鹿ですよーだ。
・・・・・・・・・・・ん?
「あれ?やっくん、攻撃開始はまだ?」
あたしのデータに間違いがなければ。
やっくん喧嘩っ早くて、ちょっとしたやさぐれ街道を歩んでるはずでは・・・?
そうそう、それで喫煙仲間なんだよね?
「ちゃん、ちゃん、あいつ亜久津仁って言うんだけど。
『やっくん』ってどうやって割り出したの・・・?」
え?亜久津?や久津じゃなくて?
ああ、やっくんはしぶがき隊の人か!
・・・・・・・・・・・すみません。
「では改めまして。あっくん攻撃開始!」
「さんっ、もうやめといた方が・・・」
「上等じゃねーの、」
「でしょー、女王様よかよっぽど上等で・・・って、ちがっ、あっくん!
あたしじゃないって!攻撃対象間違ってる!!」
どうしてあたしの胸ぐらを掴むの!?
あたしなんも悪いことしてなーーーーい!!
「売られたケンカ買ってんだろーが!」
「ちゃうちゃう!あたしケンカなんぞ売っとらんって!」
「売っただろ!いいからこっち来い!」
あ あ あ ! た す け て !
もう『どなどな』がリアルで聞こえる。
ずるずるとあっくんに引き摺られていくあたしを。
氷帝の子たちは呆れかえった瞳で見つめてて。
キヨくんはやっぱりおろおろしてて。
女王様は何処から取り出したのか分かんないハンカチーフを優雅に、笑顔で振ってた。
あんのクソ美人!
今晩、絶対夜襲かけてやる、寝首を掻いてやる。
「もう、あっくん!謝るから!しぶがき隊の人と混同しちゃったことは謝るから!
ほんとごめんなさい、すみません、二度と致しません!」
あっくんに連れて行かれた先は人っ子ひとり居やしない小部屋で。
殺られる、もしくはヤられる・・・。
命、もしくは『気持ち的にはバージン』の危機・・・。
とか、想像もしくは妄想を逞しくしてると。
意外や意外、あっくんはあたしを椅子に下ろして。
開け放してあった扉を閉めに向かった。
「、オマエ煙草持ってるか?」
「え?いや、あの、生憎二日ほど前に切らしてしまいましてですね・・・。
代わりと言ってはなんですがパイプ草なら・・・。
ガンジャじゃないですがパイプ草なら・・・」
「アア?なに言ってんだよ」
「ひぃっ!すみません、そうですよねパイプ草なんかで許して貰えるわけないですよね」
パイプ草なんか、探せばその辺に生えてるっつーのね!
そもそもパイプ吸うのってめんどくさいっつーのね!
ていうかパイプ草って煙草よかぶっちぎりでキツイっつーのね!
こんなの毎日吸ってたら、無事に帰ってから安物紙煙草なんか吸えなくなっちゃうよね!
「イイもん見せてやる」
「わあ嬉しい・・・って、わ!わ!わ!凄い!凄い凄い!」
あっくんが取り出した大きな木箱の中には、中には!
「ラーク様ぁぁぁぁぁ!!」
箱一杯のラーク様、ご光臨なさった。
は、待てよ?
もしかしてこれは趣向を凝らした拷問なんじゃないかと。
見せびらかすだけ見せびらかしといて。
『ハンッ、テメエにゃやらねーよ!』というオチが待ってるんじゃないかと。
「好きなだけやる」
「え?今なんて?」
「好きなだけやるっつってんだ」
「うそ?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
そうか、今まで気が付かなかったけど、あっくんは神様仏様だったんだな。
「ほんと疑ってごめん!ほんとごめん!も、あっくん大好き!
これからはちゃんと兄貴と呼ばせていただきますっ!!」
「いらねーよ」
「ところで、なんであっくんトコにはこんなにあるの?煙草」
「知るかよ。家捜ししてたら出てきた」
「いいなー。あたしなんかちょっとしかなかったのに」
ケチ、ケチ、あっくんだけ贔屓だ。
「それじゃあ早速一本・・・」
んー、この箱のサイズ、人工的なパッケージ、安臭い紙巻き。
危なかった、三日も吸わないと忘れそうになってた。
あっくんも一本、煙草を抜いたから。
「かんぱーい」
って言ったら、すごい嫌そうな顔をされた。
ていうかとにかくヤツをぶっ潰す。
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