44 Landing and Then
エルフの人の思惑通り十日目、野営地を発ってまもなく両岸を走る影がありました。
水面に波紋を残して川に沈む幾本もの矢。
避けるべくして避けたものではなく、『当たらなかった』。
その表現が正しいでしょう。
漕げども漕げども振り切れない追っ手。
その数はおそらく多く、時間はすべてを悪化させて行きます。
次第に近付く飛泉の轟きは、もう仲間たちの耳にも届いているはずです。
『ラウロスの滝』
それより先は、どうやったって舟で進むことは出来ません。
一艘目の舟の中は揺らぐことのない決意に満たされていました。
二艘目の舟の中は疑心の渦巻く戦場のようでした。
三艘目の舟の中は混乱が穏やかさに包まれて眠っていました。
追っ手との衝突が回避不能であることを悟った少年が言いました。
「 」
それに答えるように二人の小さな人は頷きました。
さあ、ラウロスの滝はすぐそこです。
左岸に乗り上げてはいけません。
其方側、東は闇の支配する土地なのですから。
サルマンのアイゼンガルドは西にありますが、幾らか危険も少ないのです。
なかなかの腕前で舟を岸に近付けていく三人。
足元に気をつけて。
流されないようしっかり舟を舫いで。
束の間なら、ただ漠と過ごすのもいいでしょう。
けれども長居は禁物です。
ほら、彼女が狙っているのはあの男。
ぼんやりしていると、彼女は貴方の元を離れてしまいます。
いつかのカラズラスでのように。
足元に気をつけて。
それから、彼女に気をつけて。
あの男。
彼女が狙っているのはあの男。
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